河原崎権十郎 (3代目)

三代目河原崎権十郎：歌舞伎界の重鎮とその多彩な芸歴

三代目河原崎権十郎（かわらさき ごんじゅうろう、1918年2月11日 - 1998年2月18日）は、20世紀後半の歌舞伎界を代表する名優の一人です。屋号は山崎屋、俳号は紫扇、本名は長谷真佐一。愛知県名古屋市に生まれ、二代目河原崎権十郎の次男として、祖母のもとで幼少期を過ごしました。当初は役者になることを期待されていませんでしたが、祖母が亡くなった後、父の許に戻り、役者としての道を歩むことになります。

1935年、三代目河原崎薫として新宿第一劇場の『二人道成寺』で初舞台を踏みます。十五代目市村羽左衛門の薫陶を受け、端正な容姿と確かな演技力で早くから注目を集めました。戦後の1946年には、三代目河原崎権三郎を襲名。菊五郎劇団に入団し、1955年からは東横ホールの若手歌舞伎の座頭を14年間務めるなど、活躍の場を広げていきました。

この頃、東横ホールでは若手ながら主役を多く務め、歌舞伎座などでは脇役として舞台に立ちました。立役や二枚目として、『伊勢音頭恋寝刃』の貢、『助六』の助六、『源平布引滝』の実盛、『梶原平三誉石切』の梶原平三、『東海道四谷怪談』の伊右衛門、『与話情浮名横櫛』の与三郎など、数々の重要な役を演じきりました。 十一代目市川團十郎に容姿が似ていたことから「渋谷の海老さま」と呼ばれ、絶大な人気を博しました。

1956年、歌舞伎座での團菊祭において、三代目河原崎権十郎を襲名します。その後も、東横ホールでは主役、歌舞伎座では脇役と、幅広い役柄に挑戦し続けました。 この経験が、彼の芸域を飛躍的に広げることになります。

1971年には、国立劇場の『梅雨小袖昔八丈』で初めて老役を演じ、以降は世話物や時代物の老役を数多くこなすようになります。『青砥稿花紅彩画』の浜松屋幸兵衛、『助六』の通人里暁、『近江源氏先陣館・盛綱陣屋』の時政などは、彼の代表的な当たり役として知られています。特に『助六』の通人里暁においては、時代の流行や話題を即興で取り入れることで、観客を魅了する独自の演出を確立しました。

彼の芸風は、端正な容姿と響き渡る声、そして歳を重ねるごとに増していく深みと老練さで特徴づけられます。主役から脇役まで、あらゆる役柄を高いレベルで演じきることができ、歌舞伎界に欠かせない存在でした。代役を61回も務めたという記録は、歌舞伎界における彼の圧倒的な存在感を示しています。

1998年2月18日、急性心不全のため80歳で死去。前年の11月、歌舞伎座の『芝浜革財布』で家主長兵衛を演じたのが最後の舞台となりました。 三代目河原崎権十郎の功績は、後世の歌舞伎界に長く語り継がれるでしょう。彼の残した数々の名演は、これからも多くの人々に感動を与え続けることでしょう。

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