河原武敏

河原武敏（かわはらたけとし）は、1931年3月24日に生まれ、2013年4月25日に逝去した日本の造園教育者であり、優れた庭園研究者です。

東京に生まれた河原氏は、1953年3月に東京農業大学農学部緑地学科（現在の地域環境科学部造園科学科）を卒業しました。大学時代は特待生として学び、卒業時には総代を務めるなど、早くからその才能を示していました。同年6月には東京都建設局に入庁し、造園技術者としての道を歩み始めました。公務員としてのキャリアを通じて、数多くの造園プロジェクトに携わると同時に、この時期から日本造園学会への入会など、学会活動にも積極的に関わるようになります。

東京都庁での約23年間の勤務において、河原氏は都立公園や墓園、さらには貴重な文化財庭園の計画、設計、そして工事監督など、実に474件に及ぶプロジェクトを担当しました。また、「公園設計の手引き」や「公園施設構造基準」といった、造園建設技術に関わる13件にも及ぶ基準書や手引きの作成にも深く関わっています。特に、文化財庭園の設計や工事で培った豊富な実務経験は、その後の大学での研究や教育の礎となったと言われています。

1976年3月、東京都を退職した河原氏は、同年4月に東京農業大学農学部造園学科の助教授として迎えられました。ここでは江山正美氏の後任として、造園計画学、庭園学、造園学原論などの研究室主任を務め、庭園史や近代造園史といった専門科目を担当しました。また、長年の実務経験を活かし、「庭園学及び演習」のような実践的な設計演習も指導しました。1995年4月には東京農業大学短期大学部環境緑地学科の助教授に、さらに1996年4月には造園学科の教授に昇進し、緑地計画学研究室の主任として、緑地計画学や公園緑地に関する科目を担当しました。2001年3月に東京農業大学を定年退職した後も、その貢献は高く評価され、2006年5月には日本公園緑地協会北村賞を、2008年5月には日本造園学会上原敬二賞を受賞しています。

研究者としては、日本庭園に関する専門研究に深く取り組みました。特に、平安・鎌倉時代の庭園に着目し、絵巻物や文学作品に描かれた内容を長年にわたり詳細に調査・考察し、1996年にはこの成果をまとめた「平安時代の庭園植物に関する研究」により博士（農学）の学位を取得しました。また、中国庭園の研究においても後年、第一人者として広く知られるようになりました。中国庭園に関する研究成果は、北京林業大学や上海同済大学での招待講演をはじめ、日本庭園学会、日本造園学会などの学術誌や関連雑誌に数多くの論文や記事として発表されています。

河原氏は教育・研究活動と並行して、日本庭園学会の第5代会長（2000年-2003年）を務めるなど、学会の発展にも寄与しました。その幅広い知識と経験は多くの著書としても結実しており、『庭づくり入門』、『中国庭園の技法』、『名園の見どころ』、『平安鎌倉時代の庭園植栽』、『日本庭園の伝統施設 鑑賞と技法の基礎知識』など、一般向けの入門書から専門書まで多岐にわたります。また、陳従周氏の『説園』の翻訳（佐藤昌氏と共訳）も手がけるなど、海外の造園思想の紹介にも貢献しました。

河原武敏氏は、都市の緑地整備に尽力した実務家として、また、日本庭園史や中国庭園を深く探求した研究者として、さらに多くの後進を育てた教育者として、日本の造園分野に多大な功績を残しました。その業績は、現在も多くの人々に影響を与え続けています。

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