河口俊彦

河口俊彦：将棋界の重鎮、そして優れた棋士ライター

河口俊彦(1936年11月23日-2015年1月30日)は、昭和から平成にかけて活躍した、実力と文才を兼ね備えた稀有な将棋棋士でした。1936年、神奈川県横須賀市に生まれ、小堀清一九段門下として将棋界に入門します。奨励会時代は16年間という長きに渡り研鑽を積み、30歳でようやく四段に昇段。プロ入りを果たした年齢は、当時としては異例であり、その後の奨励会における年齢制限導入のきっかけともなりました。

プロ棋士としての河口は、タイトル挑戦や優勝といった華々しい実績こそ残しませんでしたが、順位戦においては長くC級1組に在籍し、その実力を示しました。1976年度の昇降級リーグ戦では、41歳という高齢ながら見事昇級を果たすなど、粘り強い戦いぶりで知られています。また、当時A級棋士だった加藤一二三、元名人の塚田正夫、そして名人位を失ったばかりの中原誠といった強豪棋士を破るなど、数々の殊勲を挙げました。中でも1978年度の順位戦では、後に名人位を獲得する谷川浩司にその年の唯一の黒星を付けさせたことは、河口の実力の高さを物語っています。

河口は棋士としての活動に加え、優れた将棋ライターとしても知られています。現役時代から将棋観戦記やエッセイを執筆し、1978年2月に創刊された『将棋マガジン』誌で連載を開始した「対局日誌」は、大きな話題を呼びました。この連載は、一般には知られることのない、対局の舞台裏や棋士たちの日常を生き生きと描き、高い評価を受けました。一時中断後、1995年からは『将棋世界』誌で「新・対局日誌」として連載を再開。2006年7月号まで約30年にわたる長期連載となり、多くの読者から愛されました。自然体でありながら正確な描写、対局者の心理描写は見事で、長期連載を可能にした要因と言えるでしょう。

2002年に現役を引退した後も、河口は将棋界への貢献を続けました。東公平らと共に「将棋ペンクラブ」を設立し、初代会長を務めた他、数々の著書を発表。その功績により、将棋大賞（東京記者会賞）を受賞しました。中でも大山康晴とその周辺の人物像を描いた『大山康晴の晩節』は、将棋ペンクラブ大賞を受賞するなど高い評価を受けました。趣味は囲碁で、アマチュア神奈川県代表になったほどの腕前だったと言われています。

河口俊彦は、プロ棋士としての地道な努力、そして卓越した文章力によって、将棋界に大きな足跡を残しました。晩年まで将棋界への貢献を続け、多くの棋士やファンから「老師」と敬愛された河口俊彦。その功績は、これからも将棋界に長く語り継がれていくことでしょう。

昇段履歴

1951年：奨励会6級
1956年：初段
1966年：四段（プロ入り）
1973年：五段（贈五段）
1984年：六段
2000年：七段
2002年：引退
2015年：八段（追贈）

主な成績

通算成績：367勝563敗
将棋大賞：第32回（2004年度）東京記者会賞受賞
将棋ペンクラブ大賞：第15回（2002年度）『大山康晴の晩節』で受賞

著書

河口俊彦は多数の著書を執筆しており、その多くは「対局日誌」をまとめたものや、将棋界の人物評伝などです。代表的な著書として以下が挙げられます。

『つよくなるぼくらの将棋入門』
『勝ち将棋鬼のごとし プロ将棋の勝負師たち』
『新・対局日誌』全8巻
『大山康晴の晩節』
『盤上の人生 盤外の勝負』
『升田幸三の孤独』
『最後の握手 昭和を創った15人のプロ棋士』
『羽生世代の衝撃 ―対局日誌傑作選―』
『羽生と渡辺 -新・対局日誌傑作選-』
* 『棋士の才能 ―河口俊彦・将棋観戦記集―』

これらの著書は、現在も将棋ファンから高い評価を得ています。

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