河田渡船

河田渡船（こうだとせん）は、かつて木曽川に存在した重要な交通手段であり、「河田の渡し」とも呼ばれていました。

この渡し船は、現在の岐阜県各務原市川島松原町（かつての羽島郡川島村）と愛知県一宮市浅井町河田（かつての葉栗郡浅井町）の間を流れる木曽川の南派川に設けられていました。現在の河田橋から見ると、その上流およそ100メートルの位置にあったとされます。渡船の名称は、渡船場が設けられていた美濃国側（現在の各務原市川島河田町付近）と尾張国側（現在の一宮市浅井町河田）の地名に由来すると考えられています。木曽川における他の渡船と比較すると、北方渡船と内田渡船の中間に位置していました。

河田渡船の歴史は古く、鎌倉時代の承久年間（1219年～1222年）には、河田往還道の一部として既に開設されていたと伝えられています。早くも1221年（承久3年）に勃発した承久の乱では、鎌倉幕府軍のうち東海道を進む部隊がこの渡船を利用して木曽川を渡ったという記録が残されており、当時から重要な交通の要衝であったことがうかがえます。

戦国時代に入ると、その戦略的な価値はさらに高まりました。1584年（天正12年）に起きた小牧・長久手の戦いでは、羽柴秀吉（後の豊臣秀吉）がこの河田渡船の近くに河田城を築きました。これは、戦における渡船の重要性を物語る出来事です。戦後、廃城となった下奈良城の様々な道具が河田城に集められ、河田渡船を通じて美濃国へ運ばれたとも伝えられています。

しかし、木曽川は自然の猛威を示すこともありました。1586年（天正14年）6月24日には大規模な洪水が発生し、現在の木曽川の流路が形成されるもととなりました。この洪水によって、河田渡船の場所の川幅は広がり、渡船の運行にも影響があったと考えられます。

1600年（慶長5年）には、天下分け目の関ヶ原の戦いの前哨戦の一つである「河田木曽川渡河の戦い」が発生し、ここでも河田渡船が利用されるなど、日本の歴史における重要な局面でその機能を果たしました。

江戸時代に入り、世が泰平を迎えると、人々の日常的な交通手段としての重要性が増しました。特に1727年（享保12年）に真清田神社の門前で定期的に開催されるようになった三八市が始まると、河田渡船を利用して市へ向かう人々が増加し、渡船の利用者は大きく増加したと言われています。明治時代初期の運賃は3厘であったという記録も残っています。

近代になり、架橋技術の進歩とともに、渡し船はその役割を橋に譲るようになります。1922年（大正11年）7月には、木製ではありましたが初代の河田橋が架けられました。しかし、この時点では河田渡船はすぐに廃止されることはありませんでした。翌年の1923年（大正12年）には、現在の県道一宮各務原線の前身である浅井那加停車場線が県道として認定され、地域の交通網が整備されていきます。

1931年（昭和6年）7月、二代目の河田橋（こちらも木製）が架橋されたことにより、ついに河田渡船は正式に廃止されました。しかし、その後も木製の河田橋は木曽川の増水によって破損したり流されたりすることがあり、その際には臨時の渡船として河田渡船が一時的に復活し、交通を確保する役割を担いました。

最終的に、河田渡船がその長い歴史に幕を下ろしたのは1958年（昭和33年）のことです。この年に現在の頑丈な三代目の河田橋が架けられたことにより、洪水による橋の流出の危険性が大幅に減少し、渡船の臨時運航の必要もなくなったため、完全に廃止されました。

現在、かつて河田渡船が存在した場所を示す案内板が、各務原市側と一宮市側の双方に設置されており、地域の歴史を今に伝えています。

もう一度検索