河野一英

生涯

河野一英（こうの いちえい）氏は、大正9年（1920年）8月16日に生まれ、平成27年（2015年）7月24日に逝去した日本の公認会計士（登録番号992）です。正七位勲四等に叙されています。センチュリー監査法人（現在のEY新日本有限責任監査法人）で会長を務め、大東文化大学名誉教授でもありました。商学博士号を取得し、会計学の研究と教育、実務の双方で大きな足跡を残しています。オーデリック特別顧問、日東工器、日本ライフライン、化学工業日報社、味の浜藤、シレンの各顧問、横浜化成監査役、大蔵省公認会計士試験委員など、多岐にわたる役職を歴任しました。

略歴

幼少期から戦前まで

1920年、河野氏は朝鮮京畿道京城府で、平田屋（後の平田百貨店）に勤める父・河野一三氏と母・房氏の長男として誕生しました。生後約1か月で内地に戻り、父の郷里である広島県を経た後、東京府田園調布に移り住み、少年時代を過ごしました。1938年に東京府立第一商業学校を卒業し、1941年には東京実業学校教諭を務めた後、旭硝子株式会社に入社します。その後、明治大学商学部に入学しますが、太平洋戦争中の1943年9月に大学を繰り上げ卒業しました。

戦争体験

大学卒業後の1943年10月、海軍予備学生3期生として館山砲術学校に入隊し、基礎教育課程では区隊学生長を務めました。翌1944年1月に基礎教育課程を修了後、陸戦科特別攻撃隊要員に選ばれ、3月には砲術学校を恩賜賞を受けて卒業、海軍少尉に任官します。呉鎮守府第101特別陸戦隊（山岡部隊）の一員として、同年12月1日にアンダマン諸島へ赴任。島の第12特別根拠地隊陸警隊北辺隊教官を務めた後、司令部の専任参謀・島崎繁一大佐の副官となりました。1945年8月、南アンダマン島の住民約400人を無人島であるハブロック島へ移送する任務が決定し、河野氏がその指揮官に指名されます。しかし、実行の2日前に高野正好少佐の提言により、移送業務は水警隊の管轄へと変更されました。後に、この移住した住民の多くがハブロック島で飢餓により命を落とし、その責任を問われた移送指揮官（河野氏ではなく、代わりに任務に就いた2名の予備士官）は、戦後シンガポールにて処刑されています。終戦を海軍大尉として迎え、復員後に従七位に叙されました。

戦後の活動

終戦後、1947年頃には日本社会党の田中斉衆議院議員の秘書を務めた経験を持ちます。1954年に公認会計士試験に合格し、翌1955年には明治大学および中央商科短期大学で講師として教壇に立ちました。1963年4月、大東文化大学経済学部の助教授となり、1976年から1978年まで同学部の学部長を務めます。1984年には、同学部附属の経理研究所（現在の経営研究所）で初代所長に就任し、1991年まで務めました。この間、論文「会計方法論の論理構造」により明治大学から商学博士号を授与されています。公認会計士としては、センチュリー監査法人で会長を務めるなど、実務の世界でも指導的な立場に立ちました。1996年には、明治大学校友会連合駿台会の前身である明友クラブの会長に就任。また、シンガポール・チャンギ刑務所の殉難者を追悼する慰霊祭では、長年にわたり世話人会長として活動しました。

研究と著作

会計学分野における河野氏の研究は多岐にわたり、特に会計方法論に関する考察を深めました。博士論文となった「会計方法論の論理構造」をはじめ、多数の著書や論文を執筆しています。主要な著作には『会計学の基礎理論』、『工業簿記』、『監査実務』などがあります。

人物

河野氏は東京都大田区田園調布に自宅を構え、港区に「河野一英事務所」を置いて活動していました。趣味は読書でした。妻・波子氏（旧姓藤田）との間に、長男・一郎氏、長女・英代氏、二女・厚子氏をもうけました。一郎氏は中央学院大学教授、長女の英代氏は菅谷真理雄氏、二女の厚子氏は唐沢洋氏と結婚しています。また、複数の弟、妹がいました。

主な著作・論文

著書
『会計学の基礎理論』（産学社、1955年）
『工業簿記: 初歩から原価計算まで』（鶴書房、1969年）
『売掛金の回収管理: 質倒れ防止のチェック・ポイント』（同文館、1971年）
『監査実務』（森山書店、1978年）
『会計方法論の基礎構造』（森山書店、1984年）
論文
「イギリス式財務諸表のもつ特異性」（1983年）
「イギリス会計思考に関する一考察」（1983年）
「会計学における思考様式に関する一考察」（1982年）
「会計方法論の史的考察」（1980年）
「日米財務諸表の主な相異点について」（1979年）

受賞・栄典

1992年 - 日本公認会計士協会学術賞
1994年4月29日 - 勲四等旭日小綬章

もう一度検索