河野壽

河野壽（こうの ひさし）：二・二六事件に散った陸軍航空兵

河野壽（こうの ひさし）は、1907年3月27日に生まれ、1936年3月6日に自決した日本の陸軍軍人です。最終階級は航空兵大尉。二・二六事件において牧野伸顕襲撃部隊を指揮し、事件後、自決という道を選びました。

生涯

長崎県佐世保市で生まれた河野は、幼少期に熊本県熊本市へ転居。熊本陸軍幼年学校を経て陸軍士官学校に進み、1928年（昭和3年）に卒業。横須賀重砲兵聯隊に配属され、砲兵として軍歴をスタートさせました。

村中孝次との出会いを経て、河野は航空兵へと転科。所沢陸軍飛行学校で学び、飛行第12聯隊に配属されます。1935年（昭和10年）には陸軍航空兵大尉に昇進し、再び所沢陸軍飛行学校で操縦学生として研鑽を積みました。

二・二六事件への参加

1936年（昭和11年）に発生した二・二六事件において、河野は民間人を主体とした襲撃部隊を指揮し、湯河原に滞在していた前内大臣・牧野伸顕を襲撃しました。襲撃部隊は旅館「光風荘」を襲撃し、警護の巡査を殺害、牧野を捜索しました。

牧野は従業員の助けにより難を逃れましたが、襲撃の際、旅館の主人や看護婦が負傷しました。河野自身も巡査との銃撃戦で負傷しています。

自決

牧野襲撃で負傷した河野は、東京第一衛戍病院熱海分院（現国際医療福祉大学熱海病院）に入院。自決を促す電報が弟たちから届く中、兄に自決用の刃物を依頼し、果物ナイフを受け取りました。3月5日、河野は病室を抜け出し割腹。頸動脈を突き自決を図りましたが、果物ナイフでは致命傷とならず、約16時間後に死亡。享年28歳でした。

葬儀は東京で行われ、所沢飛行学校の関係者らが参列。死後、正七位を返上、大礼記念章（昭和）を褫奪されました。辞世は「あを嵐過ぎて静けき日和かな」。墓所は東京都港区元麻布の賢崇寺にあります。自決に使用した果物ナイフは、襲撃現場となった光風荘に展示されています。

親族・出身校

河野の父は海軍少将であり、兄の司は二・二六事件後、事件関係資料の収集や遺族会の世話役を務めました。また、河野の出身校である旧制・熊本県立済々黌中学校(熊本県立済々黌高等学校)は、五・一五事件や二・二六事件に関与した青年将校を複数輩出しています。

河野壽を演じた俳優

河野壽は、映画『叛乱』（1954年）で村山京司が、『226』（1989年）で本木雅弘が演じています。

河野壽は、若くして命を絶った悲劇の軍人として、二・二六事件の歴史の中でその名を刻んでいます。

参考文献
河野司『私の二・二六事件 弟の自決』河出文庫、1989年。ISBN 4-309-47152-8

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