賢崇寺

賢崇寺：歴史と著名人の墓が眠る元麻布の寺院

東京都港区元麻布に位置する賢崇寺は、曹洞宗に属する由緒ある寺院です。寛永12年(1635年)、鍋島藩初代藩主・鍋島勝茂が、疱瘡で亡くなった息子の鍋島忠直を弔うために建立されました。江戸時代の寺院建立の規制を考慮し、仙波氏菩提寺であった高輪正重寺を移転・改称する形で創建されました。忠直の戒名「興国院殿敬英賢崇大居士」から寺号が名付けられました。

当初は鍋島家の菩提寺として、歴代藩主の遺骨が納められていました。しかし、明治時代以降は国許春日山に神道墓所が設けられたり、青山墓地に埋葬されるなど、埋葬場所が変化していきます。東京大空襲では、寺は壊滅的な被害を受けましたが、昭和47年(1972年)に本堂、昭和50年(1975年)に鐘楼が再建されました。

広大な境内には戦後、高級マンション「鍋島ハイツ」が建設され、その後2001年には「パークコート元麻布ヒルトップレジデンス」として生まれ変わりました。現在では、都内でも有数の高級マンションとして知られています。

多くの墓が眠る静寂の境内

賢崇寺の境内には、31基の鍋島家関連の墓が静かに佇んでいます。いずれも五輪塔で造られており、鍋島忠直をはじめ、初代藩主鍋島勝茂、勝茂に殉じた重臣30名、小城藩初代藩主鍋島元茂、9代藩主鍋島斉直とその妻など、鍋島家ゆかりの人々が眠っています。かつては10代藩主鍋島直正の墓もありましたが、1999年には春日山に移されました。

しかし、賢崇寺を特に有名にしているのは、二・二六事件で犠牲となった「二十二士」の墓です。死刑となった19名に加え、自決した野中四郎、河野寿の2名、そして相沢事件で死刑となった相沢三郎もここに眠っています。遺体の引渡しすら困難だった状況の中、栗原安秀の父・勇の尽力と当時の住職・藤田俊訓の尽力により、墓が建立されました。現在も、2月26日と7月12日には合同慰霊祭が営まれています。現在の墓碑は、1952年7月12日の第十七回忌法要時に建立されました。

鍋島家以外にも、佐賀県ゆかりの人物の墓が多くあります。著名人では、元佐賀藩士の久米邦武とその息子で洋画家の久米桂一郎、佐賀藩出身の政商松尾儀助、祖父が佐賀藩士だった市村清、佐賀県生まれの宮地嘉六や戸川幸夫、父が佐賀県出身の蒲原有明などが眠っています。

さらに、明治43年の七里ヶ浜沖ボート遭難事故で犠牲になった逗子開成中学校生徒12名もここに眠っており、現代の著名人では、2015年に亡くなった女優の川島なお美の墓も建立されています。夫・鎧塚俊彦の提案によるデザインで、生年のワイン「ロマネ・コンティ」や女優帽をモチーフにした個性的な墓となっています。2017年に亡くなったミュージシャン、ムッシュかまやつ（本名・釜萢弘）も、2018年に小平から改葬されています。

賢崇寺は、歴史的事件、鍋島家、そして様々な著名人たちの墓を擁する、静謐な中に歴史の重みを感じさせる寺院です。その歴史と静寂は、訪れる人の心に深い感銘を与えることでしょう。

もう一度検索