泰緬鉄道建設捕虜虐待事件

泰緬鉄道建設捕虜虐待事件

泰緬鉄道建設捕虜虐待事件は、第二次世界大戦中の1942年から1943年にかけて、タイとビルマ（現在のミャンマー）を結ぶ泰緬鉄道建設中に発生した、日本軍による連合軍捕虜およびアジア人労働者に対する虐待事件です。

背景

日本軍は、ビルマへの補給路確保、援蒋ルートの遮断、インパール作戦の成功を目的として、全長約415kmに及ぶ軍用鉄道（泰緬鉄道）の建設を計画しました。1942年7月に着工し、翌1943年10月に完成したこの鉄道は、タイのノーンプラードゥックとビルマのタムビザヤを結ぶものでした。

事件の概要

鉄道建設は、山岳地帯であり、コレラなどの伝染病が多発するタイとビルマの国境地帯で行われました。日本軍は、工事の早期完成のため、連合軍捕虜やアジア人労働者を組織的に動員しました。動員された人数は、アジア人労働者が約20万人から30万人、連合軍捕虜が約6万2千人から6万5千人とされています。

過酷な労働環境、食料不足、疾病、虐待などが原因で、建設期間中に約1万6千人の連合軍捕虜が死亡しました。アジア人労働者の死亡者数は、裁判で争われていないため正確な数は不明ですが、約4万人から7万人と推定されています。

戦後の裁判

戦後、連合軍は、捕虜虐待の責任と、軍事作戦のために捕虜を労働させた戦争法規違反を理由に、日本軍関係者をBC級戦犯として裁きました。特に、泰緬鉄道建設の首脳部5人に対する裁判は注目を集めました。南方総軍野戦鉄道司令官の石田栄熊中将ら5人は、ハーグ陸戦法規やジュネーブ俘虜条約違反に問われました。

裁判では、検察側が収容所関係者に対して食糧や医薬品の不足、病弱者への労働強制を、鉄道部隊に対しては過酷な労働を追及しましたが、責任の所在は明確になりませんでした。弁護側は、工事の決定は日本軍大本営によるものであり、現地部隊は関与していないこと、また、雨季の到来やコレラの発生により、やむを得ず食糧や医薬品が不足したと主張しました。

連合軍と日本側の報告には、捕虜の総数と死亡者数に若干のずれがありました。裁判の結果、鉄道関係の石田司令官は禁錮10年、収容所関係者の中村所長と第4分所長は絞首刑、第2分所長は禁錮10年、第1分所長は禁錮10年を宣告されました。石田司令官は、慰霊碑を建立し慰霊式典を行ったことが情状酌量されたとされています。

F隊事件

奥地で建設にあたったF隊では、約7千人の連合軍捕虜のうち3千人以上が死亡しました。この事件では、収容所と鉄道隊から7人が起訴され、4人に死刑が宣告されましたが、後に2人が終身刑、2人が禁錮15年に減刑されました。被告人の責任範囲外の要因が死亡率を高めたと判断されました。

余録

泰緬鉄道建設に関する事件では、鉄道関係者よりも泰俘虜収容所の関係者が多く有罪となりました。鉄道部隊関係の起訴は2件、有罪は3人、死刑はなしにとどまりました。また、この裁判では、下級者に重く、司令官に軽い刑が宣告される傾向が見られ、英国本国でも問題視されました。戦犯裁判は、連合軍捕虜の虐待に関するものであり、アジア人労働者の虐待については裁かれていません。

参考文献

林(2005): 林博史、『BC級戦犯裁判』、岩波書店, 2005年
林(1998): 林博史、『裁かれた戦争犯罪 イギリスの対日戦犯裁判』、岩波書店, 1998年。
岩川(1995): 岩川隆、『孤島の土となるとも－BC級戦犯裁判』、講談社、1995年。
東京裁判ハンドブック(1989): 東京裁判ハンドブック編集委員会編、『東京裁判ハンドブック』、青木書店、1989年。

関連項目

日本の戦争犯罪一覧
BC級戦犯
戦場にかける橋

外部リンク

パダンの捕虜〜とりあえずテナセリウム〜テナセリウムから泰緬へ〜独断専行

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