洗礼機密

正教会の洗礼機密について

洗礼機密（せんれいきみつ）は、正教会における七つの機密の一つであり、洗礼式や聖洗禮儀（せいせんれいぎ）として知られる奉神礼の中核をなす儀式です。この機密は、信徒が神の僕となるための重要な通過儀礼と位置づけられています。

洗礼機密は、キリスト教における最も古い儀式の一つであり、その起源は非常に古く、4世紀のギリシア教父であるイェルサリムの聖キリル（エルサレムの聖キュリロス）が著した『啓蒙者の為の機密講話』にも詳細な記述が見られます。その内容は、現代の洗礼の奉神礼にも多くが受け継がれています。

洗礼前の準備

正教会では、信徒でなくても誰でも自由に教会に参祷することができます。しかし、教会が信徒として受け入れるためには、まず啓蒙者（洗礼志願者）として受け入れ、キリスト教の教えを学ぶ必要があります。この期間中、教会は集まって何を信じているかを教え、洗礼の準備をします。

洗礼機密の意義

洗礼機密は、領洗者（洗礼を受ける者）が父と子と聖神（聖霊）の名によって水中に三度沈められることによって行われます。この行為は、古い自己が水中に葬られ、キリストと共に死に、すべての罪が洗い清められて、新しい生涯へと生まれ変わることを象徴しています。この儀式を通して、領洗者はキリストと共に復活する恵みが与えられ、正教徒としての新しい人生を歩み始めます。

正教会においては、至聖三者（父と子と聖神）の名によって執り行われない洗礼は認められません。これは、マトフェイ福音（マタイによる福音書）28章19節などの聖書箇所に基づいています。

洗礼機密（聖洗礼儀）の構成

現在の日本正教会では、灌水式（頭に水を注ぐ）と浸礼式（全身を水に浸す）の両方の形式で洗礼が行われています。洗礼に際しては、受洗者の「代父母」となる正教徒の男女が立てられます。幼児洗礼の場合でも、祈祷文や奉神礼の構成は成人の洗礼と変わりません。幼児の場合、唱えるべき祈祷文は代父母が代わって唱えます。

洗礼は、啓蒙式から始まり、悪魔祓い、教会入り口（西）を向き悪魔との縁を断ち、宝座（東）へ向きを変えキリストとの結びつきを表明し、ニケア・コンスタンティノポリ信経を告白します。この「向きを変える」行為は、「悔い改め」の本質を表しています。また、「東を向く」という行為は英語の「Orientation」の語源となっています。

洗礼機密では、喜びの油を塗布し、「父と子と聖神の名によって」水に三度沈み、三度起き上がることで、キリストと共に死んで復活するという体験を象徴的に行います。多くの教会では、浸礼を行うための設備がないため、頭に三度水を注ぐ形式が採用されています。洗礼は一生に一度しか行われません。これは、死と復活の体験が、キリストの再臨までの眠りにすぎないハリスティアニン（キリスト教徒）にとっては、再び死ぬことはあり得ないためです。

洗礼機密を受けた後、受洗者は聖名（せいな）を授かり、白い洗礼着を着ます。そして、「ハリストスによって洗礼を受けし者、ハリストスを着たり」という洗礼讃詞が歌われる中、イコンの周りを歩きます。

洗礼着を着たまま、続けて傅膏機密（ふこうきみつ）が行われます。

まとめ

洗礼機密は、正教徒にとって信仰生活の出発点であり、神の恵みと新しい人生への希望が与えられる重要な儀式です。この儀式を通じて、信徒はキリストとの絆を深め、神の国へと歩み始めます。

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