傅膏機密

傅膏機密（ふこうきみつ）とは

傅膏機密は、正教会における七つの機密の一つであり、洗礼機密の直後に行われる重要な儀式です。ギリシア語では「χρίσμα」、ロシア語では「миропомазание」、英語では「chrismation」と表記されます。この儀式では、特別な聖油である聖膏を体に塗ることで、聖神（聖霊）の恩寵が信者に与えられると信じられています。

歴史的背景

4世紀のギリシャ教父、イェルサリムの聖キリル（エルサレムの聖キュリロス）が著した『啓蒙者の為の機密講話』には、洗礼機密と傅膏機密が連続して行われることが記されています。この伝統は、現代の正教会に至るまで変わらず保持されています。

カトリック教会や聖公会における堅信に相当する儀式ですが、正教会では幼児洗礼の場合でも洗礼機密に引き続き傅膏機密が行われる点が異なります。西方教会では成人洗礼の場合に洗礼と堅信を同時に行うこともありますが、正教会では常に洗礼と傅膏は連続して行われます。

聖書における記述

傅膏機密の根拠となる聖書の記述は以下の通りです。

信徒が神から賜る聖神の恩寵が「傅膏」と呼ばれる記述
ヨハネの手紙一2章20節
コリントの信徒への手紙二1章21節
旧約において傅膏により、王への即位、および聖職者への叙聖が行われた記述
サムエル記上10章1節
出エジプト記30章23-26、30、32節
新約において叙聖者と一般信徒の区別なく、全ての信徒が傅膏機密を受けるべき事が示されている記述
ヨハネの黙示録1章6節
ペトロの手紙一2章9節

これらの聖句は、傅膏が神の恵みと聖霊の賜物を表す重要な儀式であることを示唆しています。

傅膏機密の構成

現代の正教会では、傅膏機密は洗礼式の後半部分として行われます。洗礼機密と傅膏機密は一体不可分の儀式であり、この二つを含めて洗礼式とみなされます。

1. 聖膏塗油: 各国地域の[正教会]]の中でも「独立正教会]」と認められる教会において、[[首座主教が調製した聖膏が用いられます。この聖膏は、聖神を伝えるものとされ、信者に塗油されることで、聖霊の恵みが与えられ、信者は「光照者」となります。
2. 初代教会の習慣: 初代教会では、大斎の時期を啓蒙者の教育に充て、洗礼は復活大祭に合わせて行われていました。復活節にはヨハネ福音書と使徒行伝が読まれ、ハリストスの奥義と初代教会の歩みが新たに信者となった者に教えられました。
3. 滌浄: 洗礼着を着たまま光明週間を過ごした後、「滌浄」と呼ばれる儀式が行われます。この儀式では、体に塗られた「喜びの油」が海絨（ヒソプ）で拭われます。これは、「新たな人」への生まれ変わりが完了したことを意味し、信者は信仰の道を歩み始めます。
4. 剪髪式: 滌浄後には、信徒としての最初の捧げ物として、頭の毛を少し切り取る「剪髪式」が行われます。これは、神への献身を象徴するものです。

洗礼式の完了

洗礼機密と傅膏機密が一体となった洗礼式は、聖体礼儀の前に行われます。新受洗者は聖体礼儀において必ず領聖（聖体尊血を領食すること）を行います。伝統的には、この領聖をもって洗礼が完了すると考えられています。ただし、緊急時における摂行洗礼では、傅膏機密は行われず、領聖も直後には行われません。

漢字表記について

正教会の祈祷書である聖事経などには、「傅膏機密」と表記されています。「傅」の漢字には右上に点がありますが、一部書籍では点の無い「傳」と誤って表記されることがあります。日本正教会の出版物にも稀に誤植が見られるため注意が必要です。

参考文献

イラリオン・アルフェエフ著、ニコライ高松光一訳『信仰の機密』東京復活大聖堂教会（ニコライ堂） 2004年

外部リンク

* 横浜ハリストス正教会における、傅膏機密を含めた洗礼式の写真集

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