洞川湧水群

洞川湧水群：大峯山のふもとに湧き出る神秘の水

奈良県吉野郡天川村洞川は、霊峰大峰山の麓、熊野川の最上流部に位置する、古くから修験道の盛んな土地です。この地域に点在する洞川湧水群は、吉野熊野国立公園内にあり、大小30カ所以上の鍾乳洞から湧き出る地下水と湧水を指します。

地質と地形：カルスト台地の恵み

洞川地区は、ジュラ紀以前の山上ケ岳層群と呼ばれる地層で構成されています。石灰岩、緑色岩、頁岩、チャートなどが複雑に混ざり合った地質は、独特のカルスト地形を形成しています。浸透性の高い石灰岩と、ブナ原生林や吉野杉の人工林が織りなす涵養林は、多雨地域特有の急斜面で水を蓄え、豊富な地下水を涵養する役割を果たしています。

湧水の特性：清冽でミネラル豊富な水

洞川湧水群の水温は10～12度と低く、水質は石灰岩地域特有のカルシウムイオンと炭酸水素イオンを主成分とする弱アルカリ性の軟水です。硬度は約30と軟水に分類され、pHは7.7を示します。さらに、微量ながら金、白[[金]]、有機ゲルマニウムなども検出されています。この独特のミネラルバランスは、古くから人々に珍重されてきました。

代表的な湧水：信仰と歴史が息づく三つの水源

特に有名な湧水として、以下の三ヶ所が挙げられます。

神泉洞: 比較的大型の鍾乳洞内で清水が流れ、その神秘的な美しさから「神の水」として崇められてきました。現在、民間企業によって管理されており、洞内への立ち入りは制限されていますが、湧水は「大峯山の天然水」として販売されています。この水は、0.1μmのマイクロフィルターで濾過された後、非加熱でボトリングされています。
ごろごろ水: 奈良県天然記念物である五代松鍾乳洞の近くの大岩から湧き出る地下水です。地下水中を流れる水の音が、大岩の中で反響して「ゴロゴロ」と聞こえることから、この名が付けられました。
* 泉の森: 洞川地区の入口、鬼門にあたる場所に位置し、樹齢300年を超える神木の朽ちた幹の奥から湧き出ています。古くから疫病除けの守護神が祀られ、神聖な場所として大切に守られてきました。

名水百選と保全：未来への継承

これらの湧水群は、1985年に環境省の名水百選に選定されました。地元住民は古くから湧水を信仰の対象、あるいは「守り神」として大切に保護してきました。その歴史と文化、そして豊かな自然環境は、未来世代へと受け継がれていくべき貴重な財産です。洞川湧水群は、自然の恵みと人々の信仰が一体となった、まさに聖なる水の集積と言えるでしょう。今後も、この貴重な水資源の保全と、その魅力の発信が重要となります。

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