津和野川河川景観整備

津和野川河川景観整備

津和野川河川景観整備は、1991年から1996年にかけて、島根県鹿足郡津和野町を流れる高津川水系津和野川において実施された河川整備事業です。この事業は、単なる治水対策に留まらず、景観と環境への配慮を重視した点が特徴で、護岸や落差工などの整備を通じて、地域に新たな価値を創出しました。

事業の背景

津和野川は、山々に囲まれた盆地に位置し、津和野町の中心部を流れています。津和野は、城下町の面影を残す歴史的な町並みで、多くの観光客が訪れます。しかし、津和野川は河積が不足しており、洪水時の安全確保が課題でした。そのため、河床掘削による河川改修が計画されましたが、それに伴い護岸の再整備が求められました。

デザインの転換

当初の護岸計画は、コンクリート護岸によるものでしたが、建設省（現国土交通省）の指導により、自然環境に配慮した近自然型工法へと変更されました。設計を担当した篠原修は、津和野の景観に調和するよう、伝統的な石積みの護岸を参考にしたデザインを提案しました。

デザインのポイント

篠原は、当初の計画には三つの欠陥があると指摘しました。

1. 伝統的な型を踏まえていない：津和野川の護岸は、角ばった山石の空積みが特徴であり、丸い川石を使うべきではない。
2. 短絡的な親水志向：階段を設置するだけで、河川空間に変化がない。単調な風景になっている。
3. 河川敷内への閉じこもり：河川管理者のみで計画、デザインすると、自己完結性が高く、周辺から浮いた空間になってしまう。

これらの反省を踏まえ、津和野川のデザインは、川を町の表の空間として捉え直し、川と町を結びつけることを目指しました。具体的には、以下の点が重視されました。

川と町をつなげる: 津和野のメインストリートである殿町通りと川の接点に橋詰広場を設け、養老館の裏庭を河川区域に取り込み、芝生広場を整備。
回遊性の向上: 川沿いを散歩道として整備し、観光客や地域住民が楽しめる空間を創出。
地場素材の活用: 広場の舗装や護岸に、地元の石州瓦を使用し、景観との調和を図る。

整備内容

整備された津和野川は、以下の要素で構成されています。

護岸: 自然石練積みで、深目地としてコンクリートを目立たなくし、植物が生えやすいように配慮。勾配は三分とやや急にすることで、引き締まった印象に。
広場: 橋詰広場、桜の広場、太鼓谷稲荷前広場、出会いの広場など、様々なオープンスペースが点在。石州瓦や自然石を使い、景観に配慮。
落差工: 子どもの水遊びと生態系に配慮した湾曲平面型の落差工を設置。

施工の工夫

自然石の配置は、下部を大きく、上部を小さくするように指示されました。当初、現場作業員は手間のかかる作業に難色を示しましたが、完成した護岸の美しさに感銘を受け、次年度からは積極的に取り組むようになったと言います。

地域への影響

津和野川の整備は、観光客の増加だけでなく、地域住民の生活にも好影響を与えています。整備された広場は、イベントや憩いの場として活用され、川と町の一体感を生み出しています。また、川の整備を契機に、殿町通りの整備、鴎外記念館や安野光雅美術館の建設、道の駅の設置など、さらなるまちづくりへと繋がりました。

諸元

設計指導: 篠原修
設計: プランニングネットワーク（岡田一天）、大建コンサルタント、出雲グリーン
施工: 栗栖組
設計期間: 1989年から1996年
施工期間: 1989年から2002年
護岸: 右岸/自然石積護岸(3分勾配、深目地仕上げ) , 左岸/水辺テラス付緩勾配芝斜科面(2割から7割勾配)
バラベット: 側面石州瓦小端積み。天端笠石据付自然石積
広場: 橋詰広場/瓦タイル、自然石平板、ケヤキ植栽 河畔の桜の広場/自然石平板。サクラ植栽、自然石車止め、太鼓谷稲荷前ポケット広場/瓦タイル、自然石平板、綠台ベンチ
落差工: 湾曲平面型2段落差工（全落差高H=2.3m）、上段/コンクリート平滑面仕上げ（h=1.0m 1.5割勾配）、下段/自然石埋込仕上げ（h=1.3m 1.25割勾配）

受賞歴

しまね景観賞(1996年)
* 土木学会デザイン賞優秀賞(2002年)

まとめ

津和野川河川景観整備は、単なる河川改修にとどまらず、地域の歴史や文化、景観に配慮した優れたデザインによって、新たな価値を創出した事例です。この事業は、土木デザインの可能性を示すとともに、地域創生における河川の役割を再認識させるものと言えるでしょう。

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