津田青楓

津田 青楓（つだ せいふう）は、1880年9月13日に京都で生まれ、1978年8月31日にその生涯を閉じた、明治から昭和にかけて活動した日本の芸術家です。画家としては洋画と日本画の両分野で、また書家、随筆家、歌人、さらには良寛の研究者、装丁家としても知られる、多彩な才能の持ち主でした。本名は津田亀治郎といい、旧姓は西川。母方の姓である津田を名乗りました。最初の妻である山脇敏子も洋画家でした。

華道去風流の家元であった西川一葉の息子として京都市中京区に生まれた青楓には、兄に同じく去風流家元を継いだ西川一草亭がいました。小学校を卒業すると、京都の呉服問屋である千切屋に奉公し、ここで次第に意匠の仕事に関わるようになります。この経験が後の図案家としての活動の基礎となりました。

当初は日本画に興味を持ち、四条派の升川友広、そして谷口香嶠に師事しました。1897年には京都市立染織学校に入学し、卒業後は同校の助手も務めました。その後、1899年に関西美術院に入り、ここで浅井忠や鹿子木孟郎に日本画とともに洋画も学びます。関西美術院での研鑽と並行して、京都髙島屋の図案部で働き、1903年には図案集『うづら衣』を出版するなど、この時期から多方面での活動を展開しました。1904年には兄の一草亭らと共に小美術会を結成しています。

芸術家としての視野を広げるため、1907年からは農商務省の海外実業実習生として、画家の安井曾太郎と共にフランスのパリに留学します。アカデミー・ジュリアンに入学し、高名なジャン＝ポール・ローランスのもとで学びました。このパリ滞在中にアールヌーヴォーの洗礼を受け、その後の創作に影響を与えました。1909年に帰国するまでの間、パリでは安井曾太郎、彫刻家の荻原守衛や高村光太郎ら、多くの芸術家たちと親交を深めました。

帰国後、文展（文部省美術展覧会）に出品するなど活動しましたが、1913年に文展を脱退。翌1914年には、より自由な芸術表現を目指す画家たちが集まり結成された二科会の創立に参加しました。絵画制作の傍ら、後進の育成にも力を注ぎ、1929年には京都市東山区に自身の洋画塾を開設しました。

文学界との繋がりも深く、特に夏目漱石とはその晩年の約5年間、師弟あるいは友人として親密な関係を築きました。青楓は漱石に油絵の手ほどきをしたり、漱石の代表作『道草』や『明暗』、森田草平の小説『十字街』などの装丁を手がけ、文豪の作品世界を彩りました。

漱石の死後、経済学者・河上肇の影響を受けた青楓は、社会の矛盾に目を向け、プロレタリア運動に共鳴するようになります。1931年の第18回二科展には、国会議事堂と貧しい民家の対比を描いた社会派作品『ブルジョワ議会と民衆の生活』を出品しましたが、警察当局からの圧力により『新議会』へと改題を余儀なくされました。さらに1933年、作家小林多喜二が特高警察の拷問により死亡した事件を主題にした油絵『犠牲者』を制作中に警察に検挙され、留置されるという経験もしました。この時は処分保留で釈放されています。

こうした経験を経てか、1933年頃までにプロレタリア運動から離れ、二科会も脱退。洋画から日本画へと表現の主軸を移していきました。

没後もその業績は再評価され、2020年には東京都の練馬区立美術館において、生誕140年を記念した初めての本格的な回顧展「生誕140年記念 背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和」展が開催され、多角的な活動に光が当てられました。

青楓の著書は多岐にわたり、図案集、随筆、歌集、自身の経験を綴ったものなど、数多く刊行されています。関連事項としては、青楓の作品約500点を収蔵する青楓美術館（山梨県笛吹市）や、青楓の洋画塾で学んだ抽象画家オノサト・トシノブなどが挙げられます。

主な著書

『画家の生活日記』 (1924)
『青楓随筆』 (1924)
『良寛随筆』 (1935)
『漱石と十弟子』 (1949)
『盲亀半生記』 (1956)
『老畫家の一生』 (1963)
* 『春秋九十五年』 (1974)

その他、初期の図案集なども多数刊行されています。

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