浅尾荘一郎

浅尾 荘一郎

浅尾 荘一郎（あさお そういちろう、1898年12月29日 - 1978年5月31日）は、日本の電子工学者。富山県に生まれる。特に光電管技術、中でも銀セシウム光電管の高感度化に顕著な業績を残し、日本の真空技術分野の確立にも貢献した。

経歴

旧制富山中学校、旧制第四高等学校を経て、1923年に東京帝国大学理学部物理学科を卒業。同年、東京電気株式会社（後の東芝）に入社し、研究者としての道を歩み始めた。

光電管研究と銀増感法の開発

浅尾が研究に着手した当時、光電管はまだ実用には至っていなかった。1888年にドイツのエルスターおよびガイテルによって発明されたものの、光電感度が極めて低かったためである。1928年には、イギリスのキャンベルとアメリカのコラーが、銀板を酸素中で酸化し、その上にセシウム蒸気を反応させることで、それまでのものよりはるかに高感度な銀セシウム光電管を開発した。この進展を受け、日本では1929年頃から東京電気において、浅尾が中心となって銀セシウム光電管の研究が開始された。

浅尾らの研究チームは、まず光電管の構造開発から着手した。小型タイプでは陰極（光電面）に銀板を用い、陽極は1本の針金状とした。一方、大型タイプではガラス球の中心にモリブデン製の小円盤とタングステンコイルからなる陽極を配置。このコイルに銀の小粒を抱かせ、加熱して銀をガラス壁に蒸着させることで陰極を形成した。これら2種類の構造は、その後の光電管の基本的な形態として広く知られるようになった。

初期の実験段階では、光電管の感度は5〜10μA/lm程度にとどまり、必ずしも十分ではなかった。しかし、浅尾らは研究を進める中で、偶然とも言える重要な発見をする。光電面の基盤となる蒸着膜が薄すぎて失敗した試料に対し、酸化・セシウム活性化処理を行った後、再び銀を蒸着してみたところ、驚くべきことに感度が大幅に向上したのである。この偶然の発見に着想を得て、約1年間の集中的な研究を経て、銀を再蒸着することで感度を高める画期的な「銀増感法」の開発に成功した。この方法により、浅尾らの開発した光電管は最高100μA/lmという当時としては世界最高水準の感度を達成した。また、その感度帯域は可視光域から近赤外域にまで広がっており、この高性能な光電管は、黎明期のテレビジョン技術の発展に極めて重要な役割を果たした。

この研究成果をまとめた「Behaviour of the foreign metal particles in the composite photo-cathode(複合感光陰極内に於ける金属粒子の作用)」という論文により、浅尾は1940年に東京帝国大学から理学博士号を授与された。

その他の活動と晩年

研究者としてだけでなく、技術者、組織のリーダーとしても活躍した。東京電気の経営に参画し、東芝電機理事を務めたほか、後進の育成にも力を注ぎ、工学院大学教授としても教鞭をとった。また、日本の真空技術分野の発展に不可欠な存在として、日本真空協会の設立に尽力し、初代会長としてその基盤を築いた。

これらの功績に対し、1955年には紫綬褒章を受章している。

家族としては、大日本帝国陸軍軍人・矢木亮太郎の長女を妻に迎えた。長女の夫は西洋史学者で大東文化大学名誉教授の穂積重行。次女の徳川陽子は物理学者として東京工芸大学名誉教授を務め、その夫は言語学者で大阪大学名誉教授の徳川宗賢である。また、孫の松方冬子は日本史学者として東京大学教授を務めているなど、多くの家族が学術分野で活躍している。

1978年5月31日、心不全のため東京都大田区の自宅にて逝去。享年79。

もう一度検索