浅香忠雄

浅香 忠雄（あさか ただお）は、明治41年（1908年）1月12日に大阪府堺市に生まれ、昭和60年（1985年）5月28日に77歳でその生涯を終えた、昭和期に活躍した日本の実業家であり政治家です。

大正14年（1925年）、堀川商工専修学校を卒業し、実業界での道を歩み始めました。彼は多岐にわたる分野で経営手腕を発揮しました。木村屋製パンや浅香産業の社長として自ら事業を率いる一方、朝鮮耐火煉瓦でも社長を務めました。さらに、日本の主要企業である大阪変圧器や三洋電機では顧問として経営戦略に関与しました。教育分野にも関心を持ち、大阪工業大学の常任顧問として学術振興にも貢献しました。この他にも、交通事業を担う新京阪交通や、レジャー産業である仁和寺ゴルフクラブの取締役を務めるなど、その活動範囲は広範に及びました。

実業界での実績と並行して、政治の世界にも深く関わりました。大阪府会議員に選出され、地方行政においてその手腕を発揮しました。特に教育分野に対する関心は強く、大阪府教育委員会の委員長や、大阪府立の新制大学を設立するための委員長を務めるなど、地元の教育基盤の整備に尽力しました。

地方政治家としての経験を積み重ねた後、国政へと舞台を移しました。昭和24年（1949年）1月に行われた第24回衆議院議員総選挙に、当時の中選挙区であった大阪府第3区から、民主自由党公認候補として立候補し、初当選を果たしました。以降、安定した地盤を築き、昭和33年（1958年）5月実施の第28回総選挙に至るまで、都合5期にわたり連続して衆議院議員を務めました。この間、国政の中枢で重要な役割を果たしました。具体的には、第5次吉田内閣においては厚生政務次官として入閣し、国の厚生政策に携わりました。また、衆議院の常任委員会の一つである逓信委員会の委員長を務め、国の通信・交通行政に関する法案審議や政策決定においてリーダーシップを発揮しました。

所属政党である自由党、そしてその後の自由民主党においても要職を歴任しました。自由党時代には、党運営の要となる総務を務めたほか、政策立案を担う政務調査会では財政金融部長や副会長として党の経済・財政政策を牽引しました。自由民主党に合流後も、全国組織委員会の副会長として党勢拡大に努め、また政務調査会の通信部長として再び通信行政分野の政策策定に関与するなど、一貫して党の要職で活躍しました。

しかし、次の第29回衆議院議員総選挙では、惜しくも次点に終わり、議席を失いました。政界での活動に一区切りをつけた後も、社会への貢献は続きました。長年にわたる実業および政治分野での功績が評価され、昭和53年（1978年）4月には、春の叙勲において勲二等瑞宝章を受章するという栄誉に浴しました。

昭和60年（1985年）5月28日に逝去した後、その功績を称えられ、同年5月31日には特旨をもって位記が追贈され、死没日付をもって従四位に叙されました。

浅香忠雄は、製パン、産業、建設、電気機器、教育、交通、レジャーと多岐にわたる実業分野で辣腕を振るうとともに、大阪府政から国政まで、地方と中央の両方の場で政治家としても活動した、戦後日本の復興と発展に貢献した稀有な人物の一人です。

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