計帳

計帳：古代国家の財政と人口管理を支えた公文書

計帳とは、古代の律令制において作成された重要な公文書の一つです。戸籍と並んで「籍帳」や「帳籍」と呼ばれ、後に「大帳」とも称されました。計帳は、国家の財政計画や人口管理に欠かせない役割を果たしており、その制度や運用方法は、古代社会の政治・経済構造を理解する上で重要な手がかりとなります。

中国における計帳

中国では、6世紀の北朝西魏において蘇綽によって整備されたとされています。隋・唐時代には、均田制や租庸調という税制を支える基本的な台帳として、戸籍と同様に重要な位置を占めていました。

毎年年末には、各戸主が戸口や田畑に関する情報を申告する「手実」という書面を提出しました。州や県ではこの手実を基に、徴収可能な税額を集計。戸単位での課税の有無、人口、官から支給された田地の面積と境界などを記載し、中央政府の戸部に報告していました。戸部はこれらの情報を元に、国家の財政計画を策定しました。また、県は作成した計帳を30年間保存する義務がありました。敦煌文書の中には、大統13年（547年）と推定される計帳の残巻も残されており、当時の計帳の実態を知る貴重な資料となっています。

日本における計帳

日本の計帳制度は、唐の制度を基に確立されたと考えられています。大化2年（646年）の改新の詔に初出がみられますが、大宝律令の戸令に規定が確認できる以前の状況は明らかではありません。

大宝律令、養老律令において、計帳の作成方法はほぼ同様でした。京職や各地の国司は、毎年6月末までに管轄下の各戸から手実を徴収しました。唐の制度と異なり、日本の手実には田土に関する記載はありませんでした。国司らは手実に基づいて、国や郡単位で戸数、人口、調庸の物量を集計した計帳（「目録」「目録帳」、大宝律令では「国帳」）を作成し、8月末日までに計帳使を通じて太政官に提出していました。ただし、『延喜式』によると、平安京では手実の作成期限は9月末、太政官への提出期限は10月末日とされています。

計帳には、「枝文」と呼ばれる付属文書が添付されていました。郷戸帳、浮浪人帳、中男帳など、様々な種類の枝文が存在し、社会の様々な階層や状況を反映していました。また、「歴名」と呼ばれる、坊・里単位にまとめた文書も作成され、計帳と共に太政官に提出されたと考えられています。平城京からの出土品からも、計帳と歴名がセットで提出されていた可能性が示唆されています。

養老元年（717年）には計帳作成に関する式が制定され、太政官に提出される計帳を「大計帳」と呼ぶようになりました。これが略されて「大帳」となり、『延喜式』などにも用いられるようになりました。

中央政府は計帳の数字を基に、その年の税収を予測し財政計画を立てていました。また、課税人口の増減は国司の治績評価にも用いられていました。しかし、9世紀以降は計帳の作成や提出が滞るようになり、10世紀には戸籍に基づいて計帳を作成することが認められるなど、次第に形骸化していきました。最終的には、実際の租税徴収とは無関係な形式的な帳簿と化していきました。

正倉院文書や出土した漆紙文書からは、計帳、手実、歴名などが残されており、古代の社会構造や行政の実態を知る上で貴重な史料となっています。計帳は、古代国家の運営を支えた重要な制度であり、その歴史的変遷を知ることは、日本の歴史を理解する上で不可欠です。

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