浮草 (映画)
映画『浮草』
『浮草』は1959年に大映が制作した日本映画であり、監督は著名な小津安二郎です。この作品は、1934年に松竹蒲田撮影所で製作された『浮草物語』を元にしたリメイクで、当時の旅役者の世界を鮮明に描き出しています。特に、宮川一夫によるアグファのカラー映像は、旅芝居の情緒をより一層引き立てています。また、小津が第二の故郷である三重県で唯一ロケーション撮影を行った映画でもあります。
概要
『浮草』は、三重県の志摩郡や浜島町、大王町、阿児町、さらには東京都のあきる野市や神奈川県茅ヶ崎市の茅ヶ崎海岸など、さまざまな場所を舞台に撮影されました。特に、旅役者のストーリーが中心となり、深い人間ドラマが展開されます。初版『浮草物語』に出演した三井秀男（後の三井弘次）だけが再び出演しており、笠智衆もノンクレジットながら前作に顔を出しています。
本作は、1958年に『大根役者』として松竹で撮影を試みていましたが、様々な事情から撮影が中止。その後、大映にて撮影が決定しました。これがきっかけで、女優の山本富士子を借りたための制作が実現したのです。
あらすじ
物語は、嵐駒十郎（中村鴈治郎）が率いる旅芝居の一座が港に到着するシーンから始まります。実は、駒十郎にはこの地で一膳飯屋を営むお芳（杉村春子）との間に息子がいます。彼は12年ぶりにその元を訪れ、その息子・清（川口浩）が成長し、高校を卒業して郵便局でアルバイトをしていることを知ります。清は母から父が死んだと聞かされ、実の父を「おじさん」と信じ込んでいます。
駒十郎は清と親しく交流を重ねますが、その一方で、一座の看板女優であるすみ子（京マチ子）は彼の行動を不審に思い、お芳と清の存在を知ります。彼女は清を誘惑するよう若い女優の加代（若尾文子）に頼み、物語は次第に複雑な人間関係を展開していきます。
清が加代との関係を深める中、駒十郎はその事実を知り、彼女を責めます。しかし、清は父を拒絶することに。さらに、一座の金を持ち逃げした話が明らかとなり、駒十郎は一座の解散を決意します。彼はお芳と清に別れを告げるために会いに行くが、清は加代と出かけていたため、思いが叶いません。
最終的に、駒十郎は一人で地元を去る決心をし、駅で待っていたすみ子と共に夜汽車に乗り込み、桑名へと向かいます。この結末では、複雑な人間ドラマが描かれ、愛情や親子の絆、そして失望が交錯する深いメッセージが伝わります。
スタッフ
キャスト
作品データ
本作は、大映東京撮影所で製作され、カラー版でスタンダードサイズ（1.37:1）のモノラル音声です。また、1964年に小津安二郎の追悼企画として本作を原作にしたテレビドラマも放送されています。これらの要素もまた、『浮草』の魅力を引き立てる要因となっています。
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