浮雲 (映画)

映画『浮雲』の概要

1955年に公開された「浮雲」は、日本映画界の巨匠成瀬巳喜男が監督し、原作は林芙美子、脚本は水木洋子が手がけた作品です。この映画は、成瀬監督と主演の高峰秀子にとって特別な位置を占める名作であり、また若き日の岡本喜八がチーフ助監督を務めたことでも知られています。「成瀬組」と呼ばれる精鋭スタッフが集結したこの作品は、日本映画史に残る重要な作品として数々の賞を受賞しました。

あらすじ

物語は1943年、戦時中の日本から始まります。女性タイピストの幸田ゆき子は、仏印に渡り農林省の技師、富岡兼吾と出会います。当初、富岡に対して否定的な感情を抱いていたゆき子ですが、次第に彼との関係が深まっていきます。しかし、富岡には妻がいることがわかり、ゆき子は苦悩の中で彼との恋愛を継続します。終戦を迎えた後、富岡は妻と離婚する意思を示し、帰国しますが、ゆき子が東京に訪れると、富岡は妻と別れていないことが発覚します。

失意の中、ゆき子は米兵の情婦となり、再会した富岡との間に摩擦が生じます。それでも、２人は再度結びつきを深め、伊香保温泉へ旅行に出かけます。そこで彼らは飲み屋の主人、清吉と出会い、特別な時間を過ごしますが、富岡はその妻であるおせいに心を寄せることになります。ゆき子はその関係に気づき、再び別れの道を歩むことになります。

ゆき子は妊娠していることが判明し、再度富岡を訪れるものの、そこにはおせいとともに同棲している富岡の姿がありました。やむを得ずゆき子は中絶手術を受け、事故の報道で清吉が妻を絞殺した事件を知ります。躊躇いながらも、伊庭杉夫という男に頼りながら生活していきます。

やがて富岡が現れ、妻の邦子が病死したことを告げます。新しい生活のために屋久島へ転任する富岡に同行するゆき子ですが、彼女の体調は悪化し、船内で医者に止められながらも無理を続けます。屋久島に到着した頃、彼女は衰弱した状態でした。豪雨の日、富岡が彼女の容態を知り駆けつけますが、ゆき子はすでに息を引き取っていました。悲しみに暮れる富岡は、彼女の最期を見届けながら死化粧を施すことになります。

キャストとスタッフ

高峰秀子が幸田ゆき子を演じ、富岡には森雅之。そのほかにも岡田茉莉子や山形勲が名を連ねています。成瀬巳喜男監督のもと、音楽は斎藤一郎が担当しました。映画の撮影は玉井正夫が手がけ、美術は中古智が担いました。

評価と受賞歴

「浮雲」は1955年度のキネマ旬報ベストテンで1位を獲得し、監督賞及び主演男優、女優賞を受賞するなど、多くの賞を受けました。その後も、日本映画の評価が高まる中で、様々なランキングでトップクラスの作品として名を馳せています。小津安二郎がこの映画を称賛したこともあり、映画界での影響力は計り知れません。

エピソード

高峰は最初、主演を引き受けるのに不安を抱いていましたが、その熱意が逆に強い依頼の要因となりました。製作時のエピソードや撮影の工夫は、映画の深いメッセージ性を形成する基盤となっています。

「浮雲」は、愛と喪失の物語を通じて人間の本質を描写した感動的な映像作品として、今なお多くの人々に愛され続けています。

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