海燕ジョーの奇跡

佐木隆三による小説『海燕ジョーの奇跡』は、1980年に発表されました。1984年には藤田敏八監督により映画化もされています。物語は、沖縄の暴力団抗争という激しい社会情勢の中で、あるヒットマンの逃避行を描いたものです。

物語の背景

物語の背景となっているのは、実際に1974年に発生した旭琉会理事長射殺事件です。この事件をモデルに、フィクションとして再構築されています。ただし、現実の事件では、犯人はすぐに自首し、服役後に漁師として生活していましたが、後に海難事故で行方不明となっています。
佐木隆三は、この事件を題材に、本作以前にも「褐色の銃弾」という作品を執筆しています。また、佐野真一の著書『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』でも、事件のモデルとなった人物について触れられています。

小説のあらすじ

物語は、島袋一家という暴力団が琉球連合から破門されるところから始まります。親分の島袋が逃亡する中、ジョーという男が琉球連合理事長の金城を射殺します。ジョーは逃亡生活に入り、ミッチー姐という女性の紹介で、米軍基地近くの黒人女性の家に身を隠します。しかし、琉球連合の男たちに見つかり、危機一髪のところを、かつての革命運動家、上勢頭に助けられます。
ミッチー姐から、親分の伝言として「フィリピンの与那嶺を訪ねるように」と伝えられたジョーは、上勢頭の仲介で漁船に乗り、フィリピンを目指します。フィリピンでのジョーの役目は、覚せい剤ルートの強化でした。与那嶺から麻薬の製造法を教えられ、かつて自分と母を捨てたフィリピン人の父親と再会します。落ちぶれた父親に、漢方薬と偽って覚せい剤の原料を栽培させます。
麻薬取引が軌道に乗り始めた頃、ジョーの恋人である陽子がフィリピンを訪れます。陽子から、与那嶺がかつて敵対していた真岡組という暴力団の所属であったことを知らされ、ジョーは親分の真意を疑い始めます。
ある日の取引で身元がばれ、陽子に助けられたジョーは、与那嶺が殺されたことを知ります。偽造パスポートを手に入れ、陽子と共に沖縄へ帰ります。
沖縄で親分に再会したジョーは、親分が真岡組と手を組むことを知らされます。ジョーの逃亡中、島袋一家への報復は激しく、6人が殺されていました。ジョーは琉球連合のもう一人の理事長、仲宗根を狙うことを決意します。報復で殺された男の弟とペアを組み、仲宗根を射殺しますが、警官隊に包囲され、再び逃走します。

映画版

映画版では、時任三郎が海燕ジョーを、藤谷美和子が陽子を演じています。その他、清水健太郎、正司歌江、原田芳雄、三船敏郎など、豪華キャストが出演しています。

監督は藤田敏八、脚本は神波史男、内田栄一、藤田敏八が担当しました。音楽は宇崎竜童が手掛けています。

映画製作の裏側

映画化にあたっては、様々な困難がありました。当初、松竹の企画会議で何度も企画が却下されていましたが、東映で映画化が決定したことを知り、奥山和由プロデューサーが三船プロとの共同製作を思い立ちました。
三船敏郎に直接企画を説明し、出資を依頼したところ、快諾を得られました。監督には藤田敏八、脚本には神波史男が起用されましたが、脚本の内容を巡って様々な意見が出され、最終的に内田栄一が加わることになりました。

撮影は沖縄、与那国島、台湾、フィリピンで行われましたが、フィリピンでの撮影は非常に困難を極めました。現地の治安が悪く、スタッフの安全を確保するために、日本のヤクザに協力を依頼する場面もありました。また、藤谷美和子が撮影中に失踪するというトラブルもありました。

作品の評価

映画は、第8回モントリオール世界映画祭に出品されましたが、評価は分かれました。しかし、沖縄からマニラまでの旅の部分は高く評価され、文化的なルーツとの接触の必要性を表現した父親を求めての旅が評価されました。

深作欣二版映画企画

本作以前には、東映が深作欣二監督、松田優作主演で映画化する企画がありましたが、松田優作が脚本を酷評したことがきっかけで、企画は頓挫しました。

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