海竜めざめる

海竜めざめる

『海竜めざめる』（原題: The Kraken Wakes）は、イギリスの著名なSF作家ジョン・ウィンダムによって執筆された小説です。この作品は、地球外の知的生物が海底から地上への侵略を開始し、全人類が直面する破滅的な状況を描いた終末的なSFストーリーです。1953年にイギリスで出版された本書は、同年にアメリカでも販売され、日本では1956年に訳書が刊行されました。一般的には、1966年に星新一が訳した版が広く知られています。

作品の背景とメッセージ

ウィンダムの作品には、H・G・ウェルズの影響を色濃く受けた文明批判の要素が含まれています。本作は、巧妙なユーモアを交えつつ人類の持つ欠点を風刺し、読者に深いメッセージを伝えようとしています。語り手であるマイク・ワトソンは、直接的な危機を経験しつつも報道者としての立場にあり、この作品に「心地よい破滅」のアプローチが感じられます。ストーリーの展開は、後のSF映画やドラマに大きな影響を与え、星新一もその後の作品と本作の類似性に言及しています。

物語の中で触れられる「海竜」は、北欧の伝説に由来する巨大な海の怪物を指しますが、実際には侵略の脅威の象徴として用いられています。敵はその実体を明らかにせず、読者はその正体を推測することしかできませんが、深海からの襲来という背景から、木星のような高気圧下の環境から来たと考察されています。

あらすじ

物語は、侵略の進行を描いた「第一段階」「第二段階」「第三段階」の三部構成です。

第一段階

物語は、イギリスの民間放送会社EBCに勤務するマイク・ワトソンとその妻フィリスが、空から落ちてくる火球を目撃するシーンから始まります。この火球は世界中で報告され、すべて海深部において発見されたものです。調査潜水球は行方を絶ち、各国の海上艦船も次々と消失していきます。疑心暗鬼が渦巻く中、地質学者ボッカー博士は地球外生命体による侵略の可能性を示唆します。

第二段階

次第に南洋の沿岸部における「海の戦車」と呼ばれる夜襲が始まり、マイクとフィリスは調査隊に加わりますが、町は襲撃され、多くの人々が捕らわれてしまいます。彼らは辛うじて危機を逃れ、状況を報告しますが、夜襲は世界各地に広まります。各国は防衛に力を入れるものの、制海権は依然として奪われたままです。

第三段階

さらに、南極・北極からの氷河が流出し、海面が上昇するという攻撃が発覚します。これにより、都市が水没する危機が迫り、数年後には人々の生活が限界に近づいていきます。マイクとフィリスはロンドンを離れ、別荘に移りますが、その生活も苦境に立たされます。

書籍の影響と結末

本作は、冷戦の不安や国家間の緊張を描きつつ、実際の北海大洪水も背景にしています。また、構造的にウェルズの『宇宙戦争』との類似点がありながらも、侵略の進行が長期にわたる点で異なり、人々はその脅威を実感しないまま進んでいきます。

イギリス版とアメリカ版の有名な結末の相違も、この作品の興味深い点です。双方の結末では、マイクとフィリスがどのように状況に対処するかが異なります。アメリカ版では科学者ボッカー博士が登場し、新兵器の開発を知らせる一方、イギリス版では近隣住民がラジオを通じて復興の情報を伝えるという形になります。

メディア展開

1954年にはBBCによるラジオドラマが制作され、1998年にも同様のラジオドラマが放送されました。また、1965年にはカナダのCBCでもラジオドラマが作られるなど、作品は様々な形で広く認識されています。

このように『海竜めざめる』は、SF文学のみならず、映像やラジオドラマなどのメディアを通じてもその影響とメッセージを広めています。

もう一度検索