海軍兵学校

海軍兵学校（かいぐんへいがっこう）

海軍兵学校は、海軍の指揮官となる士官（兵科将校）を育成することを目的とした高等教育機関です。通常、入学から卒業までには約4年間を要し、この期間を通じて、海軍将校として必須となる広範な専門知識、高度な技術、および人間的な教養を修得します。教育カリキュラムにおいては、実践的な能力を養うため、手漕ぎボートによる厳しいカッター訓練や、実際の艦船に乗り込んで行う長期の洋上実習などが重視される点が特徴として挙げられます。

特に第二次世界大戦終結までの日本においては、大日本帝国海軍の士官学校を指す固有名詞として「海軍兵学校」の名称が用いられました。このため、諸外国の同種の教育機関に対しても、日本語ではしばしば「海軍兵学校」という訳語が充てられています。現代日本の防衛組織である自衛隊においては、海上自衛隊を含む陸・海・空の各部隊が、それぞれ「幹部候補生学校」を設置し、同等の役割を担っています。

日本における海軍兵学校

かつての大日本帝国海軍の海軍兵学校本校は、広島県安芸郡江田島町（現在の江田島市）に置かれていました。ただし、ここでは主に初級士官候補生の教育が行われ、より上位の提督クラスの高級士官を育成する専門教育機関としては、別に海軍大学校が設立されています。1945年の第二次世界大戦終結に伴う日本の敗戦により、旧海軍とともに海軍兵学校もその長い歴史に幕を閉じました。

戦後、旧海軍の任務を引き継いだ海上自衛隊では、その幹部養成を、かつての海軍兵学校と同じ江田島の地に設立された海上自衛隊幹部候補生学校が担っています。この学校が、実質的に諸外国の海軍兵学校と同様の機能を果たしていると言えます。現在の江田島には、海上自衛隊幹部候補生学校のほか、海上自衛隊第1術科学校などが置かれています。ここでは、防衛大学校や一般大学の卒業生、あるいは部隊経験者など、多様な経歴を持つ者が海上自衛隊の幹部候補生として集まり、それぞれのキャリアパスに応じた数週間から1年程度の教育を受けています。

かつての海軍兵学校の面影を残すこの地では、現在も一般向けの施設見学が随時行われています。敷地内には、当時の貴重な資料や建物を展示する教育参考館、厳粛な雰囲気を持つ大講堂、さらに

戦艦「陸奥」の主砲
特殊潜航艇

といった歴史的な展示物があり、これらは海上自衛隊OB・OGの案内による無料ツアー（1日3回実施）で見学が可能となっています。また、見学ツアー参加者は、敷地内の食堂や売店を利用することもできます。

沿革

日本の海軍兵学校の起源は、1855年（安政2年）に長崎に設立された長崎海軍伝習所に遡ります。この伝習所は1859年（安政6年）に一度閉鎖されますが、1866年（慶応2年）に横浜で再開され、横浜海軍伝習所となりました。明治維新後の1869年（明治2年）7月には海軍操練所が創設され、同年9月には築地に移転します。1870年（明治3年）11月には海軍兵学寮と改称され、さらに1876年（明治9年）8月31日に海軍兵学校と改称され、近代日本の海軍士官養成の中枢となります。そして、1888年（明治21年）8月1日、教育環境の整備のため、江田島へと移転しました。太平洋戦争中の戦力拡大に伴い、1943年（昭和18年）には岩国航空隊内に岩国分校が、1944年（昭和19年）9月には海軍機関学校を改編した舞鶴分校が、同年10月には大原分校が設置されましたが、1945年の終戦により全て解体されました。

世界の海軍兵学校

世界各国の海軍も、それぞれの士官養成機関を有しており、これらも広く「海軍兵学校」と称されることが多いです。代表的な例としては、

アメリカ合衆国：合衆国海軍兵学校（United States Naval Academy）。メリーランド州アナポリスに所在し、通称「アナポリス」と呼ばれます。
イギリス：ブリタニア王立海軍兵学校（Britannia Royal Naval College）。デヴォン州ダートマスに所在し、通称「ダートマス」と呼ばれます。主に大卒者向けの約半年間の短期課程で士官を育成しています。
* フランス：海軍兵学校（エコール・ナバール）。高等専門学校（グランゼコール）の一つとして位置づけられています。現役幕僚向けの課程や下士官向けの短期課程も併設されています。

この他にも、アジアではインド（エジマラ）、トルコ、韓国、中華人民共和国（大連艦艇学院）、中華民国（台湾）などが、ヨーロッパではイタリア（リヴォルノ、フランチェスコ・モロジーニ）、ギリシャ、デンマーク、ドイツ（ミュルヴィク）、ノルウェーなどが独自の海軍兵学校やそれに準ずる教育機関を設けています。

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