海風 (海風型駆逐艦)

海風 (初代)

「海風」は、大日本帝国海軍が黎明期に保有した駆逐艦の一隻です。海風型駆逐艦のネームシップとして、日本海軍における技術的な進歩を象徴する存在でした。後の時代に同名の駆逐艦（白露型）が登場したことから、区別のため「海風 (初代)」や「海風I」と呼ばれることがあります。

計画と建造

本艦は1907年（明治40年）度計画に基づき建造が決定されました。海風型駆逐艦（同型艦に「山風」）は、当時のイギリス海軍のトライバル級駆逐艦を参考に設計された、比較的大型の駆逐艦として計画されました。最大の特徴は、日本海軍の駆逐艦として初めて主機関に蒸気タービンを採用した点にあります。これは、機関出力の向上と高速化を目指す上で画期的な試みであり、また初期の「航洋型」、すなわち外洋での行動能力を持つ大型駆逐艦の先駆けともなりました。

計画段階での仮称艦名は「伊号大駆逐艦」、基本計画番号はF9でした。建造は舞鶴海軍工廠で行われることになり、1907年12月20日に製造訓令が下されました。1909年2月2日には正式に「海風」と命名され、同年11月23日に舞鶴海軍工廠で起工。興味深いことに、当時の舞鶴工廠では、本艦と並行して桜型駆逐艦の「桜」「橘」の建造も進められていました。

1910年10月10日、無事に進水式を迎えました。この重要な式典には、当時の皇太子殿下（後の大正天皇）が臨席され、海軍大臣や鎮守府司令長官ら多数の要人が奉迎しました。同日付で駆逐艦籍に類別されます。

しかし、竣工前の海上試運転中にタービン関連の事故が発生し、艦後部の補強が施されることとなりました。この改修を経て、本艦は1911年9月28日に竣工しました。

就役後の歩み

竣工後、「海風」は日本海軍の最新鋭駆逐艦として運用されました。1912年8月28日には駆逐艦に等級が付与され、本艦は「一等駆逐艦」に類別されます。同年に行われた大規模な海軍演習では、河内型戦艦、筑摩型巡洋艦、そして海風型駆逐艦や桜型駆逐艦といった、当時の日本海軍を代表する新鋭艦群とともに参加し、その性能を披露しました。

第一次世界大戦が勃発すると、本艦は第一南遣支隊に編入され、南洋群島の攻略作戦に参加しました。また、1918年（大正7年）のシベリア出兵においては、沿海州沿岸の警備活動に従事するなど、戦時下の任務を遂行しました。

1926年11月29日には、艦艇の類別等級表に「艦型」（クラス）が正式に定められ、本艦は「海風型」に類別されます。同年12月1日から1928年12月10日にかけては鎮海要港部に所属し、主に朝鮮半島沿岸での任務にあたりました。

その後

時代の移り変わりとともに艦艇の役割も変化する中、「海風」はその艦生の最終段階を迎えます。1930年6月1日、本艦は駆逐艦籍から除かれ、掃海艇へと類別が変更されました。この際、「第七号掃海艇（二代）」と改称されます。掃海艇としての任務に就いた後、最終的に1936年4月1日をもって除籍されました。

本艦の艦長としては、桑島省三中佐や新納司中佐をはじめ、掃海艇への変更後も含め、多くの士官がその指揮を執りました。

「海風 (初代)」は、日本海軍における駆逐艦の技術革新期に建造され、初めて蒸気タービンを採用した大型駆逐艦として、その後の駆逐艦発展の礎を築いた一隻と言えます。その艦歴は、第一次世界大戦やシベリア出兵といった激動の時代と共にありました。

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