海鳴り街道

『海鳴り街道』について

『海鳴り街道』（うみなりかいどう）は、1936年（昭和11年）に製作・公開された日本の長編劇映画です。日本映画のトーキー初期に作られた剣戟映画として位置づけられています。

この作品は、日本映画史に名を残す監督、山中貞雄が日活京都撮影所で手掛けた、俳優・大河内伝次郎主演作品シリーズの通算10作目にあたり、同時にこのコンビによる最後の作品となりました。

脚本は「梶原金八」という共同筆名が用いられています。この筆名は、監督である山中貞雄をはじめ、稲垣浩、八尋不二、三村伸太郎、藤井滋司、滝沢英輔、鈴木桃作、萩原遼といった複数の脚本家や監督が共同で用いたものです。本作の脚本は、三村伸太郎の原作をもとに、これらのメンバーが共同で執筆にあたりました。後年、『山中貞雄作品集』（1985年刊行の『山中貞雄作品集 2』および1998年刊行の『山中貞雄作品集』）には、そのシナリオが収められています。

製作は日活京都撮影所が行いました。作品データとしては、上映時間は86分（9巻、2,376メートル）、フォーマットは白黒、スタンダードサイズ（アスペクト比1.33:1）、モノラル録音となっています。初回興行は東京・浅草の富士館で行われました。

主な出演者は以下の通りです。

稲葉小僧新助：大河内伝次郎
大和屋勘兵衛：鳥羽陽之助
作兵衛：横山運平
茂十：高勢実乗
夜明けの健六：今成平九郎
春吉：宗春太郎
女郎屋女おちか：衣笠淳子
お光：伊村利江子
女将：石井喜美子
新助の父・東左衛門：磯川勝彦
叔父・元右衛門：香川良介
新助の許婚・おきく：鈴村京子
作兵衛倅：左文字一郎
おんこうの安蔵：清川荘司
目明し弥太七：鬼頭善一郎
代官三村甚左衛門：山口佐喜雄
* 倅甚太夫：沖田修司

残念ながら、『海鳴り街道』の上映用フィルム全編は現存していません。東京国立近代美術館フィルムセンターにも所蔵されていません。しかし、失われた作品の貴重な痕跡として、玩具フィルムとして切り取られた断片が発見されています。この断片は音声トラックがないサイレントのもので、時間は約68秒です。内容は、主演の大河内伝次郎演じる稲葉小僧新助と捕り方との間で繰り広げられるクライマックスの剣戟シーンの一部を捉えたものです。この断片は、プラネット映画資料図書館によって復元され、サイレントプリントとして所蔵されています。

関連情報としては、国立国会図書館に蔵書があるほか、前述のシナリオ集が実業之日本社から刊行されています。また、日本映画データベースやIMDbでも作品情報が参照可能です。

本作のように、初期のトーキー時代に製作され、フィルムが現存しない作品は少なくありません。『海鳴り街道』の発見された断片は、失われた日本映画遺産の一端を示す貴重な資料となっています。

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