渋沢史料館

渋沢史料館は、東京都北区西ケ原の飛鳥山公園内に位置する登録博物館です。近代日本の経済発展に多大な貢献をした実業家、渋沢栄一（しぶさわえいいち）の生涯と多岐にわたる事業や社会活動に関する資料を収集、保存、展示しています。公益財団法人渋沢栄一記念財団が管理・運営を担っており、公園内にある北区飛鳥山博物館、紙の博物館と共に「飛鳥山3つの博物館」の一つとして親しまれています。

設立の背景と歴史

当館の設立構想は、渋沢栄一自身の遺志と、その嫡孫である渋沢敬三（しぶさわけいぞう）の壮大な構想に端を発します。1931年（昭和6年）に栄一が逝去した後、彼の居宅であった旧渋沢家飛鳥山邸（通称「曖依村荘」）の土地と建物は、彼が生前に設立に関わった財団法人竜門社（渋沢栄一記念財団の前身）へ遺贈されました。この飛鳥山邸の活用を検討する中で、敬三は日本の近代化や産業の発展を担った人々に焦点を当てた「日本実業史博物館」の設立を構想します。

しかし、敬三の抱いた博物館構想は、その後の太平洋戦争の影響により具体化することなく頓挫しました。戦禍を避け、収集されていた資料は国文学研究資料館に疎開・保管され、「日本実業史博物館準備室旧蔵資料」として現在も保存されています。飛鳥山邸自体も、1945年（昭和20年）の空襲で建物の大部分を焼失するという被害に見舞われました。

戦後、財団は渋沢青淵記念財団竜門社と名称を改め、栄一の顕彰事業を継続します。そして、敬三の構想から時を経て、1982年（昭和57年）11月15日に、渋沢栄一の業績を紹介する専門の博物館として渋沢史料館が開館しました。

さらに、1998年（平成10年）3月には、飛鳥山公園内に新たな本館が建設され、北区飛鳥山博物館、紙の博物館と共に博物館ゾーンが形成されました。これにより、「飛鳥山3つの博物館」として、地域の文化・歴史・産業を多角的に紹介する拠点としての性格を強めます。

2003年（平成15年）11月には、財団名が現在の公益財団法人渋沢栄一記念財団に変更されます。この年には、敬三がかつて思い描いた「日本実業史博物館」構想を現代の情報技術を活用して実現することを目指し、実業史研究情報センターが設置されました。

施設概要

現在の渋沢史料館は、1998年に隣接する紙の博物館、北区飛鳥山博物館と同時に新築された鉄筋コンクリート造の建物です。地上2階、地下1階建ての構造で、延床面積は1,653.13平方メートルに及びます。設計は株式会社佐藤総合計画、施工は清水建設株式会社が手掛け、1997年に竣工しました。

館内は、1階に自由に資料を閲覧できる閲覧コーナーとミュージアムショップ、2階には渋沢栄一の生涯と業績を辿る常設展示室、そして特定のテーマに関する企画展示室が配置されています。より充実した展示環境を提供するため、2019年（令和元年）9月1日からリニューアル工事のために一時休館しましたが、翌2020年（令和2年）11月19日に無事再開館し、新たな展示で来館者を迎えています。

アクセス

渋沢史料館は飛鳥山公園内にあり、多様な交通手段でアクセス可能です。

JR京浜東北線「王子駅」南口より徒歩約5分
東京メトロ南北線「西ケ原駅」より徒歩約9分
* 都電荒川線「飛鳥山停留場」より徒歩約4分

関連施設など

飛鳥山公園内には、渋沢史料館の他に、栄一が生前使用していた旧渋沢家飛鳥山邸の一部である「晩香廬（ばんこうろ）」と「青淵文庫（せいえんぶんこ）」が現存しており、これらはいずれも国の重要文化財に指定されています。史料館と合わせてこれらの建物を訪れることで、渋沢栄一が過ごした環境やその功績をより深く理解することができます。

また、渋沢史料館を運営する渋沢栄一記念財団は、かつて財団法人竜門社、渋沢青淵記念財団竜門社として活動してきた歴史を持ちます。渋沢栄一自身はもちろん、その構想を受け継いだ渋沢敬三、現在の理事長を務める渋沢雅英（栄一の曾孫）など、渋沢家の人々が深く関わっています。

渋沢史料館は、東京都北区にある本館の他に、渋沢栄一の出身地である埼玉県深谷市にも市立の「渋沢栄一記念館」があり、それぞれの場所で彼の功績が顕彰が行われています。

渋沢史料館は、日本近代社会の礎を築いた先人の偉業を学ぶことができる、貴重な施設と言えるでしょう。

もう一度検索