渋谷伊予作

渋谷 伊予作

幕末という激動の時代に、尊王攘夷を掲げて短くも鮮烈な生涯を駆け抜けた志士、渋谷 伊予作は、天保十三年（1842年）十一月十八日、現在の暦でいえば十二月十九日に、常陸国下館（現在の茨城県筑西市下館地区）にて生を受けました。父は下館藩に仕える藩士であり、伊予作もまたその家柄を継ぎました。本名を実行（さねゆき）といいましたが、活動の中では八木成太郎という変名を用いることもありました。

伊予作が青年期を迎えた幕末は、開国か攘夷か、佐幕か尊王かを巡って国内が騒然としていました。こうした情勢の中、伊予作は藩に留まることなく、尊王攘夷の思想に強く傾倒していきます。そして文久二年（1862年）、彼は故郷である下館藩を脱藩する決断を下しました。

故郷を離れた伊予作が目指したのは、政治の中心地たる京都でした。当時の京都には、全国から様々な思想を持つ志士たちが集まり、尊王攘夷を推進するための活動を展開していました。伊予作も京都でこうした同志たちと合流し、その思想をさらに深めていったと考えられます。

翌文久三年（1863年）、伊予作は幕末史に名高い「天誅組大和挙兵」に加わります。これは、朝廷の命を受けた公家である中山忠光を主将とし、大和国（現在の奈良県）において外国勢力の排斥と幕府打倒を目指して企てられた武装蜂起でした。伊予作は中山忠光と共に、天誅組の一員としてこの挙兵に参加します。

しかし、天誅組の挙兵は勢力を拡大することなく、幕府側の反撃に遭い、わずか二週間足らずで瓦解してしまいます。志士たちは散り散りとなり、伊予作も逃走を図りましたが、残念ながら伊勢国安濃郡（現在の三重県津市周辺）で津藩によって捕らえられてしまいました。厳しい取り調べの後、京都へ送致されます。

文久四年（1864年）二月十六日、西暦でいえば三月二十三日、伊予作は京都の三条新地にあった牢屋敷、六角獄舎において刑場の露と消えました。享年わずか二十三歳。その尊王攘夷への熱い思いを胸に、若くして非業の最期を遂げたのです。

伊予作の生涯は短いものでしたが、彼の尊王攘夷への情熱と行動は、明治維新後の新たな時代において高く評価されました。明治二十四年（1891年）には、その功績を認められ、従四位が追贈されています。これは、彼の志が単なる反逆ではなく、国を憂える真摯な行動であったと、明治政府が公的に認めたことを意味します。

また、故郷である下館では、その名を今に伝えています。昭和初期に作られた西條八十作詞、中山晋平作曲の『下館音頭』の第十番の歌詞には、「おとこ伊予作 維新の花よ」と歌われ、幕末の激動期を駆け抜けた郷土の志士として、永く人々の記憶に留められています。短い生涯ながらも、その行動は確かに歴史に刻まれ、後世に伝えられているのです。

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