渡辺廉吉

渡辺廉吉：日本近代法制の礎を築いた法学者、裁判官、政治家

渡辺廉吉（わたなべ れんきち）は、嘉永7年（1854年）に越後国長岡（現在の新潟県長岡市）で生まれ、大正14年（1925年）に没した、日本の法学者、裁判官、そして政治家です。幼名を正吉といい、渡邊廉吉とも表記されます。彼は、日本の近代法制度の確立に大きく貢献し、法学博士の学位を持ち、行政裁判所評定官、内閣総理大臣秘書官、法制局参事官、行政裁判所部長、行政裁判法取調委員、貴族院議員など、数々の要職を歴任しました。

生涯と業績

越後長岡藩士の家に生まれた渡辺廉吉は、15歳で戊辰戦争に従軍し負傷。その後、大学南校独逸部や開成学校で学び、東京外国語学校でドイツ語を教えました。外務省書記生としてオーストリアに留学し、ウィーン大学で法律と政治学を修め、伊藤博文の知遇を得ます。帰国後は、大日本帝国憲法、旧皇室典範、民事訴訟法の制定に尽力しました。

1897年に高等商業学校（現一橋大学）に専攻部が設置されると、1903年に美濃部達吉が兼任教授に就任するまで、憲法・行政法などを講義しました。

主な経歴

嘉永7年（1854年）：越後国で出生
明治元年（1868年）頃：戊辰戦争に従軍
明治7年（1874年）：東京外国語学校教諭心得としてドイツ語を教授
明治13年（1880年）：外務省三等書記生としてオーストリア公使館に赴任、ウィーン大学に留学
明治16年（1883年）：帰国。太政官権少書記官に就任
明治17年（1884年）：制度取調局御用掛を兼務し、明治憲法起草作業に従事
明治18年（1885年）：法制局参事官に就任
明治21年（1888年）：内閣総理大臣秘書官に就任
明治23年（1890年）：静岡、岐阜、宮城で地方官として勤務
明治25年（1892年）：法制局参事官に復帰
明治26年（1893年）：行政裁判所評定官に就任
明治36年（1903年）：行政裁判所部長に就任
明治41年（1908年）：行政裁判制度視察のため渡欧
明治42年（1909年）：行政裁判法取調委員となり行政裁判法改正作業に従事
大正11年（1922年）：貴族院議員に任ぜられる
大正14年（1925年）：急逝

日本法の近代化への貢献

明治政府は、不平等条約の撤廃を目標に、近代的な法典の整備を急務としていました。渡辺廉吉は、伊藤博文に抜擢され、ヨーロッパの法典を参考に、大日本帝国憲法、旧皇室典範、民事訴訟法などの制定に深く関与しました。彼は、お雇い外国人とともに、日本法の近代化に大きく貢献した一人です。

山本五十六との関係

戊辰戦争を戦った越後山本家は、後継者不足に悩んでいました。名門山本家の断絶を憂慮した渡辺廉吉らの尽力により、長岡士族の高野家から山本五十六が養子に入り、家名を継ぐことになりました。渡辺廉吉は、山本五十六が連合艦隊司令長官になる以前から、その才能を見抜いていたのかもしれません。

翻訳書

『獨乙訴訟法要論』ヘルマン・ヒッチング著、博聞社、1886年（復刻版：信山社出版、2005年）
『行政學』ローレンツ・スタイン著、元老院、1887年（信山社出版、2007年）

晩年と死

貴族院議員、行政裁判所部長を務めた渡辺廉吉は、徳川家達の招待会からの帰途、道路工事中の溝に転落する事故により、大正14年（1925年）2月14日に急逝しました。墓所は青山霊園にあります。

渡辺廉吉は、日本の近代化を支えた法曹界の重鎮として、その功績は永く記憶されることでしょう。

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