湯の山温泉 (広島県)

湯の山温泉

広島県広島市佐伯区湯来町に位置する湯の山温泉は、同じ町内にある湯来温泉と共に一体的に国民保養温泉地に指定されている歴史ある温泉地です。かつては安芸国の一部であったこの地は、豊かな自然と古くからの湯治文化が息づいています。

泉質と源泉

湯の山温泉には、古くから自然に湧き出る「旧泉源」と、後に開発された「新泉源」の二つの源泉が存在します。国民保養温泉地計画書によると、いずれもアルカリ性単純弱放射能冷鉱泉という泉質を持ちます。

旧泉源は自然湧出によるもので、湧出量は毎分75リットル、泉温は23.5℃です。この源泉は民間に所有されており、一部は個人住宅でも利用されています。

一方、新泉源は動力を利用して揚水されており、毎分300リットルと豊富な湯量を誇ります。泉温は23.2℃で、こちらは広島市が所有しています。広島県の資料では、旧泉源を「湯の山温泉」、新泉源を「湯の山温泉（湯の山温田）」と区別して記載されることもあります。

温泉街と利用状況

二つの源泉は異なる施設で利用されています。旧泉源からの湯は、周辺の旅館や広島市が運営する「湯ノ山温泉館」、そして地域の守り神である湯の山明神社で使われています。新泉源の湯は、同じく広島市営の健康増進施設「クアハウス湯の山」や「湯来福祉会館」に供給されています。この温泉地の名物の一つに、打たせ湯があります。

温泉が湧く湯の山渓谷は、広島県の自然環境保全地域に指定されており、その美しい景観が守られています。また、この地の鉱泉やかつての湯治場も文化財として高い価値が認められています。1958年（昭和33年）には「湯之山旧湯治場」として広島県の史跡に指定されました。

歴史と文化財

湯の山地区は、古くから鉱泉の湧き出る場所として知られていました。断崖に掘られた湯舟や湯屋、湯の山明神社など、湯治の痕跡が残る場所は、「湯ノ山明神旧湯治場」として国の重要有形民俗文化財にも指定されています。

温泉の開湯は古く、約1200年前、大同年間（806年〜810年）に山肌の岩間から湧出したと伝えられています。一時は湯の湧出が止まった時期もあったものの、1707年と1748年に再び湧き出し始め、江戸時代には広島藩主の湯治場として栄えました。1749年には、広島藩主浅野吉長の命により、藩の儒学者であった堀正脩が霊泉の由来を記した「霊泉記」を作成しています。翌1750年には、藩主自らが湯の山明神社と湯治場を建造し、浅野吉長が入湯しました。以後、藩は湯所役人を置いてこの温泉を庶民にも開放し、多くの人々が訪れる湯治場となりました。1797年には藩の絵師、岡岷山がこの地を訪れ、その時の繁栄ぶりを「都志見往来日記」に詳細に記録しています。

近現代においては、湯来温泉が1955年（昭和30年）に先行して国民保養温泉地に指定され、湯の山温泉は1972年（昭和47年）にこれに続きました。さらに1991年（平成3年）には、両温泉地一体として国民保健温泉地にも指定されています。公共施設としては、湯来町営（当時）の「湯の山温泉館」が1974年（昭和49年）5月に、同じく町営の「クアハウス湯の山」が1994年（平成6年）7月にそれぞれ開設され、地域の健康増進に貢献しています。

アクセス

湯の山温泉へは、車の場合、中国自動車道の戸河内インターチェンジまたは山陽自動車道の五日市インターチェンジからそれぞれ約40分で到着します。公共交通機関を利用する場合、バスでのアクセスが可能です。広電バスの湯来線を利用し、五日市駅南口などから大橋バス停で下車し徒歩約20分、または湯の山温泉バス停まで乗車する方法があります。また、ささき観光の宇佐線も利用できます。

このように、湯の山温泉は古代からの伝承と江戸時代の藩主湯治場としての歴史を持ち、現在も国民保養温泉地として多くの人々に利用されています。豊かな自然環境と貴重な文化財に囲まれたこの地は、心身のリフレッシュに最適な場所と言えるでしょう。

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