湿り空気線図

湿り空気線図とは

湿り空気線図（しめりくうきせんず）は、空気とそれに含まれる水蒸気、つまり湿り空気の状態を一覧で示すための特殊なグラフです。空気線図や湿度線図と呼ばれることもあります。通常の感覚では捉えにくい、乾球温度（一般的な気温）、湿球温度、露点温度、そして空気中に含まれる水蒸気量（絶対湿度）やその飽和度（相対湿度）、さらには空気の持つ熱量（比エンタルピー）といった様々な要素の関係性を視覚的に把握できるのが特徴です。

この線図は、主に空気の現在の状態を知り、加熱・冷却・加湿・除湿といった熱的な変化が空気にどのような影響を与えるかを分析するために利用されます。例えば、特定の温度と湿度の空気を別の状態にするために必要なエネルギー量を計算する際などに役立ちます。

湿り空気の状態は、一定の全圧（通常は標準大気圧である101.325 kPaが用いられます）のもとでは、いくつかの状態量の中から任意の二つが定まれば一意に決まります。この原理に基づき、線図はこれらの状態量の相関関係を平面上に表現しています。

主な湿り空気線図の種類

湿り空気線図にはいくつかの表現形式がありますが、中でも代表的なものは以下の通りです。

モリエ線図（h -x 線図）: 乾き空気1kgあたりのエンタルピー（比エンタルピー）と、乾き空気1kgに含まれる水蒸気量（絶対湿度）を斜めに交わる座標軸にとって描かれます。一般的に「湿り空気線図」といえば、このモリエ線図を指すことが多いです。乾球温度の線がわずかに傾いているのが特徴です。
キャリア線図: 絶対湿度を縦軸に、乾球温度を横軸に取る直交座標で描かれます。
t - i 線図: 乾球温度を一方の軸に、比エンタルピーをもう一方の軸に取る直交座標で描かれます。

さらに、モリエ線図は対象とする絶対湿度と乾球温度の範囲によって細かく分類されます。例えば、通常の状態（NC線図）、高温・高湿域を含む状態（HC線図）、低温・低湿域を含む状態（LC線図）などがあり、それぞれの用途に応じて使い分けられます。温度の単位が華氏の線図も存在します。

湿り空気h -x 線図の構成要素

最も一般的に用いられる湿り空気h -x 線図には、以下の要素が示されています。

乾球温度線: 垂直に近い直線として描かれます。一般的な温度計が示す空気の温度に相当します。
湿球温度線: 右下がりに斜めに伸びる直線です。湿球温度計によって測定される空気の温度を示します。
相対湿度線: 右上がりに放射状に広がる曲線群です。空気中の水蒸気分圧が、同じ温度での飽和水蒸気分圧に対してどれくらいの割合か（パーセント）を示します。
絶対湿度線: 水平な直線として描かれます。乾き空気1キログラムに対して含まれる水蒸気の重量（キログラム）で表されます。
比エンタルピー線: 左上から右下へ斜めに伸びる直線です。乾き空気1キログラムとその中に含まれる水蒸気を合わせたエンタルピーを示し、単位はキロジュール毎キログラム乾き空気（kJ/kg(DA)）です。
* 比体積線: 斜めに伸びる直線で、乾き空気1キログラムとその中に含まれる水蒸気を合わせた体積（立方メートル毎キログラム乾き空気）を示します。

一般に、気温や湿度が高いほど空気の比エンタルピーは高くなります。例えば、線図を用いると、特定の状態間のエンタルピー差を読み取ることができます。この差は、その状態変化に必要なエネルギー量を示唆します。例えば、気温25℃・湿度50%の空気の比エンタルピーは約50 kJ/kg(DA)ですが、気温35℃・湿度50%では約80 kJ/kg(DA)、気温35℃・湿度70%では約100 kJ/kg(DA)となります。35℃・50%の空気を25℃・50%に冷却する際のエネルギーは約30 kJ/kg(DA)の差ですが、35℃・70%の空気を同じ25℃・50%にする際には、温度だけでなく湿度も下げる必要があるため、エンタルピー差は約50 kJ/kg(DA)となり、より大きなエネルギーが必要であることが読み取れます。

湿り空気線図は、これらの複雑な状態量を一度に見ることができ、空調システム設計やエネルギー管理において非常に有効なツールです。

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