激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律

激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律（激甚災害法）

激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律（昭和37年法律第150号）、通称「激甚災害法」は、大規模な災害が発生した際に、国が地方公共団体（都道府県・市町村）や被災者に対して、特別な財政援助や助成を行うための法律です。

法律の目的

この法律の目的は、災害の規模が特に甚大で、国民生活に著しい影響を与えた場合に、被災地の迅速な復旧・復興を支援することです。具体的には、国が通常の財政支援を超える特別な措置を講じることで、被災地域の早期復興を促進します。

主務官庁と関係省庁

激甚災害法の執行にあたる主な官庁は、国土交通省水管理・国土保全局防災課と農林水産省農村振興局防災課です。これらの省庁に加え、内閣府防災担当政策統括官職、総務省自治財政局交付税課、財務省主計局などの関係省庁が連携して、制度の運用にあたります。

法律の内容

激甚災害法は、以下の主要な内容で構成されています。

総則：法律の目的や基本原則を定めます。
公共土木施設災害復旧事業等に関する特別の財政援助：道路、河川などの公共インフラの復旧事業に対する国の特別な財政支援について定めます。
農林水産業に関する特別の助成：農地、農業用施設、漁業用施設などの復旧事業に対する国の特別な助成について定めます。
中小企業に関する特別の助成：中小企業の復旧・再建を支援するための特別な助成について定めます。
その他の特別の財政援助及び助成：上記以外にも、被災者の生活再建や感染症対策など、必要に応じた特別な財政支援を定めます。

激甚災害の指定方法

激甚災害の指定は、政令によって行われます。これにより、災害の規模や被害状況が国の定める基準を満たした場合に、正式に激甚災害として指定され、特別な財政援助が適用されます。

対象範囲と支援内容

激甚災害に指定されると、以下の様な支援が実施されます。

国庫補助率の嵩上げと新たな補助

公共土木施設災害復旧事業：地方公共団体が実施する公共土木施設の復旧事業において、国庫補助率が引き上げられます。
農林水産業施設災害復旧事業：農地や農林水産業共同利用施設の復旧事業に対する補助率が引き上げられます。
公立社会教育施設災害復旧事業：公民館、図書館、体育館などの公立社会教育施設の復旧事業に対して補助金が出されます。
私立学校施設災害復旧事業：私立学校の施設復旧事業を支援する補助金制度が適用されます。
感染症予防事業：被災地における感染症予防対策に対する支援が行われます。

国による特別な貸付と優遇措置

被災した農林漁業者や中小企業に対する資金の融資制度の適用
中小企業信用保険法に基づく災害関係保証
小規模企業者等設備導入資金助成法に基づく貸付金の償還期間の延長
その他、被災者の状況に応じた特別な財政支援

激甚災害の指定基準

激甚災害の指定基準は、災害の規模や被害状況に応じて細かく定められています。

全国規模で指定される激甚災害（本激）

全国的な規模で被害が発生した場合に適用される基準で、以下の様な条件があります。

公共土木施設災害復旧事業の査定見込額が、全国の標準税収入の一定割合を超えること。
農地災害復旧事業の査定見込額が、全国農業所得推定額の一定割合を超えること。

市町村単位で指定される激甚災害（局地激甚災害、局激）

特定の市町村で甚大な被害が発生した場合に適用される基準で、以下の様な条件があります。

公共土木施設災害復旧事業の査定事業費が、市町村の標準税収入の一定割合を超えること。
農地災害復旧事業の査定事業費が、市町村の農業所得推定額の一定割合を超えること。

激甚災害の指定における注意点

本激は災害そのものに対して指定されますが、局激は災害と対象地域を同時に指定します。
激甚災害に指定されても、必ずしも全ての財政援助措置が適用されるわけではありません。
局激の指定は、災害査定事業費の確定値と被災地の標準税収入等を考慮する必要があるため、年度末に一括して指定されることが通例でしたが、近年では早期に指定されるケースも増えています。

液状化現象と激甚災害法の適用

2011年の東日本大震災では、液状化現象による被害が甚大でしたが、当時の激甚災害法には液状化被害に対する具体的な指標がなかったため、適用外となりました。しかし、その後の制度見直しにより、液状化被害に対する救済措置が検討されるようになりました。

激甚災害（本激）に指定された主な災害

平成の主な災害

1994年 三陸はるか沖地震
1995年 兵庫県南部地震（阪神・淡路大震災）
1998年 台風5号から9号による豪雨・暴風雨
1998年 台風10号による豪雨・暴風雨
1999年 台風16号から18号による豪雨・暴風雨
2000年 台風14号、15号、17号による豪雨・暴風雨
2001年 前線に伴う豪雨
2002年 台風6号による豪雨・暴風雨
2002年 台風21号による豪雨・暴風雨
2003年 台風10号による暴風雨・豪雨
2004年 福井豪雨、新潟・福島豪雨など
2004年 台風10号、11号、16号、18号、21号、23号による豪雨・暴風雨
2004年 新潟県中越地震
2005年 平成17年梅雨前線豪雨
2005年 台風14号による豪雨・暴風雨
2006年 平成18年7月豪雨、台風3号、台風13号などによる災害
2007年 梅雨前線豪雨、台風4号、台風5号による災害
2009年 平成21年7月中国・九州北部豪雨など
2009年 熱帯低気圧、台風9号による豪雨・暴風雨

令和の主な災害

2011年 東日本大震災
2011年 長野県北部地震
2011年 平成23年7月新潟・福島豪雨など
2011年 台風12号、15号による豪雨・暴風雨
2012年 平成24年7月九州北部豪雨など
2013年 山口・島根豪雨、秋田・岩手豪雨、台風4号、7号、18号など
2014年 平成26年8月豪雨など
2015年 梅雨前線豪雨、台風9号、11号、12号など
2015年 平成27年9月関東・東北豪雨など
2016年 熊本地震
2016年 台風7号、11号、9号、10号など
2017年 平成29年7月九州北部豪雨など
2018年 平成30年7月豪雨
2018年 北海道胆振東部地震
2019年 令和元年房総半島台風/台風15号、令和元年8月の大雨、令和元年東日本台風/台風19号
2020年 令和2年7月豪雨
2021年 令和3年梅雨前線、令和3年8月の大雨、台風9号、10号
2022年 梅雨前線、台風8号、台風14号、15号
2023年 令和5年梅雨前線豪雨等（台風2号の暴風雨を含む）
2023年 台風7号
2024年 能登半島地震
2024年 台風10号

局地激甚災害（局激）に指定された主な災害

平成の主な災害

1997年 台風7号、8号、9号、11号、13号、19号、20号による災害
1999年 台風5号、7号、8号による災害
2000年 台風3号、4号、6号による災害
2001年 台風11号、16号、15号、21号による災害
2002年 台風5号、7号、9号、15号、16号による災害
2003年 台風4号、6号、14号、15号による災害
2004年 台風4号、6号、15号、22号による災害
2006年 台風10号、16号による災害
2007年 能登半島地震、新潟県中越沖地震、台風9号、11号による災害
2008年 岩手・宮城内陸地震、2008年夏の局地的荒天続発、台風13号、15号による災害
2009年 熱帯低気圧および台風9号、台風18号による災害
2010年 台風9号および熱帯低気圧、奄美豪雨による災害
2011年 大雨、台風2号、6号、9号、15号による災害
2013年 島根豪雨、台風26号による災害
2014年 台風8号等、台風18号、台風19号、長野県神城断層地震による災害
2015年 台風15号等による災害

令和の主な災害

2018年 台風19号、20号、21号等による災害
2022年 福島県沖地震による災害
2023年 石川県珠洲市の区域に係る災害、台風12号・13号〈熱帯低気圧を含む〉による災害

その他

2000年から2014年まで、三宅島雄山噴火による災害に対し指定が継続。

参考文献

「図解 日本の防災行政」2003年 災害対策制度研究会
「図解 日本の防災行政 改訂版」2004年 災害対策制度研究会

外部リンク

激甚災害からの復旧・復興対策 - 内閣府防災担当
過去５年の激甚災害の指定状況一覧 - 内閣府防災担当
* 『激甚災害』 - コトバンク

この法律は、災害発生時における迅速な復旧・復興を支援するための重要な枠組みであり、国民の安全と安心を確保するために不可欠です。

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