火星のプリンセス

火星のプリンセス：火星冒険小説の金字塔

エドガー・ライス・バローズの代表作にして、スペースオペラというジャンルを確立した記念碑的作品『火星のプリンセス』。1917年の初版以来、世界中の読者を魅了し続けているこの小説は、元アメリカ南軍大尉ジョン・カーターの驚くべき冒険を描いています。

記憶を失った元軍人、そして異星の地

主人公ジョン・カーターは、過去の記憶を持たない謎めいた人物です。年齢も不明な彼は、アリゾナ州の洞窟で不思議な体験をしたのち、突如として火星（小説中ではバルスームと呼ばれる）へと瞬間移動します。そこは、地球よりも高度な科学技術を持つ文明が栄える一方で、荒涼とした大地が広がる、不思議な惑星でした。

緑色人と赤色人、そしてヒロイン

火星には、六本腕を持つ緑色人や、地球人に似た赤色人が共存していました。異なる種族間の争いは絶えず、カーターは捕虜になるなど幾多の困難を経験します。しかし、並外れた身体能力と知略で、彼は生き延び、やがてヘリウム王国の美しい王女デジャー・ソリスと出会います。

恋と冒険、そして危機

デジャー・ソリスとの出会いをきっかけに、カーターの冒険はさらにスリリングなものになっていきます。緑色人の皇帝タル・ハジュスとの対決、デジャー・ソリスの奪還劇、そして火星全体の存亡に関わる大気製造工場の危機など、カーターは数々の試練を乗り越えていきます。その過程で、カーターとデジャー・ソリスの間に芽生える愛も物語を彩ります。

剣と科学技術、希薄な魔法

『火星のプリンセス』は、しばしばヒロイック・ファンタジーと比較されます。しかし、魔法のような超自然的な要素はほとんど登場せず、火星の高度な科学技術、例えば飛行船の飛行原理などは、科学的な説明に基づいています。この点が、同時代の他のファンタジー作品とは大きく異なる特徴です。むしろ、高度な科学技術と剣戟を用いた冒険活劇と言えるでしょう。

シリーズ化と多様な邦訳

『火星のプリンセス』の成功により、バローズは続編を執筆し、全11巻に及ぶ「火星シリーズ」を完成させました。日本では東京創元社より翻訳版が刊行され、武部本一郎による美しい挿絵も人気を博しています。邦題も複数存在し、『火星の王女』など様々なタイトルで出版されています。中でも、厚木淳による翻訳は、スペースオペラの隆盛に貢献したと評価されています。

映画化とその後

『火星のプリンセス』は幾度か映画化されています。中でも2012年に公開されたディズニー映画『ジョン・カーター』は、広く知られていますが、原作とは異なる部分も多く含まれています。低予算で制作された『アバター・オブ・マーズ』という作品も存在します。

まとめ

『火星のプリンセス』は、エキゾチックな異星世界、魅力的なキャラクター、そしてスリリングな冒険が融合した、傑作SF冒険小説です。その魅力は、時代を超えて多くの人々を惹きつけており、現代においても色あせることのない名作と言えるでしょう。高度な科学技術と剣戟、そしてロマンスが織りなす物語は、読者に忘れがたい体験を与えてくれるでしょう。

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