武部本一郎

武部本一郎：日本のSFイラストレーションを彩った巨匠

1914年生まれの武部本一郎は、日本のイラストレーターとして、とりわけSFアートの分野で卓越した才能を発揮しました。ペンネームに「城青児」「宇田野武」「宇多野武」「鈴江四郎」などを用い、多様な作品を発表しました。日本画家である武部白鳳を父に持ち、幼少期から芸術に囲まれた環境で育ちました。甲陽中学校在学中には画学校に通い、絵の腕を磨きました。

第二次世界大戦後、京都府に移住し、本格的に画業を開始。行動美術展覧会への入選を皮切りに、数々の賞を受賞しました。1953年頃からは「宇田野武」名義で街頭紙芝居を制作する傍ら、少年画報社や集英社などの出版社から依頼を受け、少年誌や児童書に絵物語や挿絵を提供するようになりました。1956年には、柴田錬三郎の作品に挿絵を描いたことも特筆されます。

1957年に上京後は、児童書の挿絵制作で活躍する一方、1965年から東京創元社が刊行したエドガー・ライス・バローズの『火星のプリンセス』をはじめとする火星シリーズの表紙や挿絵を手がけました。この作品が、彼の名をSFファンに広く知らしめるきっかけとなりました。

武部本一郎は、バローズ作品以外にも、ロバート・E・ハワードの英雄コナンシリーズ（ハヤカワ文庫）、エドガー・ライス・バローズ作品の多くの挿絵（創元推理文庫SF、ハヤカワ文庫特別版SFのターザンシリーズ）などを担当しました。さらに、ポプラ社の『子どもの伝記全集』では、数多くの表紙絵を手がけたことで知られています。

東京創元社で手がけたバローズ作品は、火星シリーズ、金星シリーズ（『5万年前の男』『さい果ての星の彼方に』を含む）、ペルシダー・シリーズなど多岐に渡ります。『石器時代へ行った男』『モンスター13号』『石器時代から来た男』『失われた大陸』『時間に忘れられた国』、月シリーズ、『密林の謎の王国』なども彼の作品です。これらの作品の中には、創元SF文庫の新訳版でも再利用されたものもあります。

彼の画業は高く評価され、1980年に逝去した後も、星雲賞特別賞（イラストレーターとしては唯一）を受賞。没後も画集が出版されたり、回顧展が開催されるなど、根強い人気を誇っています。

主な作品

武部本一郎SFアート傑作集 1〜3（岩崎書店）
限定版武部本一郎画集（早川書房、東京創元社）
武部本一郎SF挿絵原画蒐集 上・下（加藤直之監修、ラピュータ）
武部本一郎少年SF挿絵原画集 上・下（大橋博之編集、ラピュータ）
【iPad版電子書籍】武部本一郎SF挿絵原画蒐集（加藤直之監修、ラピュータ）

主な挿絵作品

かわいそうなぞう（土家由岐雄作、金の星社）
ガラスのうさぎ（高木敏子作、金の星社）
悲しみの砦（和田登作、岩崎書店）
小さな心の旅（関英雄作、偕成社）
文政丹後ばなし（来栖良夫作、偕成社）
四年三組のはた（宮川ひろ作、偕成社）
春よ、こい（はまみつ 作、偕成社）

その他多数

武部本一郎のイラストレーションは、その独特のタッチと魅力的な世界観で、多くの読者、そしてSFファンを魅了し続けています。彼の作品は、日本のイラストレーション史、そしてSF史において重要な足跡を残しました。数々の書籍、展覧会を通して、その作品は現代においても再評価され、新たな世代へと受け継がれています。彼の作品は、日本のSFアートの黄金時代を象徴する存在と言えるでしょう。

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