火星の大統領カーター

『火星の大統領カーター』

栗本薫の『火星の大統領カーター』は、1984年に早川書房から刊行されたパロディSF短編集で、特にファンに支持されています。この作品は、当時の人気誌「S-Fマガジン」に発表された5つの短編を一つにまとめたもので、全体として栗本の尊敬するSF作品へのユーモラスなオマージュが込められています。この短編集のタイトル作である『火星の大統領カーター』は、特に面白い切り口で、ジョン・カーターではなく、実在のジミー・カーター元大統領を主人公に据えています。

本書には、以下の短編が収められています。
1. 火星の大統領カーター（初出：1981年5月号）
2. エンゼル・ゴーホーム（初出：1980年2月号）
3. ロバート・E・ハワード還る（初出：1983年2月号）
4. ナマコの方程式（初出：1980年6月号）
5. 最後の方程式（初出：1983年3月号）

これらの作品は、エドガー・ライス・バローズの「火星シリーズ」や、フレドリック・ブラウンの「火星人ゴーホーム」、ロバート・E・ハワードの「英雄コナン」、トム・ゴドウィンの「冷たい方程式」といった名作を基にしており、栗本はそれらの要素を巧みに取り入れて自らのスタイルで再構成しています。こうした作品は、SF作品の核心にあるテーマや設定を引き出しつつ、笑いを交えた独自の視点で描かれています。

この短編集の特筆すべき点のひとつに、装幀が挙げられます。ハヤカワ・SF・スペシャル版の装丁は、1974年まで続いた「ハヤカワ・SF・シリーズ」のデザインを模しており、栗本薫のSFに対する情熱が感じられます。

そして、1988年にはハヤカワ文庫版も刊行され、さらに多くの読者の手に渡ることとなりました。このように内容だけでなく、ビジュアル面でも多くのファンを魅了する作品となっています。

加えて、本作から派生したミュージカル『ナマコの方程式』も見逃せません。この作品は、収録されている短編「ナマコの方程式」を基に、中島梓が脚本・演出を手がけて、2000年に東京で上演されました。ミュージカルに出演したキャストたちは、独自の演技で観客に楽しさを届けました。

『火星の大統領カーター』は、SFファンだけでなく、幅広い読者層に楽しめる魅力的な作品を提供しており、栗本薫の才能を余すところなく表現した一冊です。本書を通じて、栗本がどれほど多くの名作にインスパイアされ、かつSFというジャンルを愛していたかが伝わってきます。

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