英雄コナン

「英雄コナン」は、アメリカの作家ロバート・E・ハワードによって創造された、ヒロイック・ファンタジーの代表的なシリーズ作品です。1932年の発表以来、その圧倒的なスケールと魅力的な主人公像は、後世のファンタジー作品に多大な影響を与え、このジャンルの先駆けとなりました。物語の中心にいるのは、剛勇無双の戦士であるキンメリアのコナン。彼は蛮人、あるいはキンメリアのコナンとも呼ばれ、その生涯は壮絶な冒険と戦いに彩られています。ハワードの没後も、他の作家による補作やパスティーシュが数多く生み出され、シリーズの世界は広がりを見せました。また、このシリーズは1980年代にアーノルド・シュワルツェネッガー主演で映画化され、『コナン・ザ・グレート』や『キング・オブ・デストロイヤー』として世界的にヒット。特にシュワルツェネッガーをスターダムに押し上げた作品としても知られ、2011年には新たな『コナン・ザ・バーバリアン』としてリブートもされました。

物語の舞台「ハイボリア時代」

コナンの物語は、約1万2千年前、アトランティス大陸が海に沈んだ後に訪れた、歴史の記録が残されていない「ハイボリア時代」と呼ばれる架空の古代世界を舞台としています。この時代は、様々な民族が覇権を争い、古代の妖術や恐ろしい怪物たちがなお残る、混沌とした世界です。キンメリアは、かつて栄えたアトランティス人の末裔が、大変動を経て原始的な生活に戻った人々が暮らす北方の地。主人公コナンは、このキンメリアで鍛冶屋の息子として生まれました。

主人公コナン

キンメリアのコナンは、荒々しい自然の中で育まれた、屈強な肉体と不屈の精神を持つ戦士です。ゲール語で「賢明」を意味するその名は、キンメリア人がケルト人の祖先という設定に由来します。15歳にしてすでに成人男性と変わらない体躯を持つ彼は、故郷の陰鬱な気風を嫌い、外の世界へと旅立ちます。その放浪の旅は多岐にわたり、ある時は傭兵、将軍、冒険者、海賊の頭、コサックの首領、山岳部族のリーダーなど、様々な顔を持ちながら各地を渡り歩きます。彼は卓越した戦闘能力だけでなく、数多くの言語に精通し、豹のような俊敏さや垂直な壁を登る身体能力、そして驚異的な生命力を持っています。しかし、魔法の類は一切使えず、魔術を使う敵に対してはしばしば他者の助けを必要とします。

コナンの外見は、不機嫌そうなくすんだ青い瞳、黒く豊富な髪、浅黒い赤銅色の肌、筋肉質で巨大な体格と描写されます。粗暴に見えますが、ユーモアを好み、歌や酒を愛する一面も。倫理観は独自の基準に則り、相手に非がない限りは裏切ったり見捨てたりしない一方で、魅力的な女性には弱く多情な面も見せます。信仰に関しては、故郷の神クロムを仰ぎますが、それは厳格な神であり、救済ではなく困難に立ち向かう勇気を与える存在と捉えています。迷信深い側面を持ちながらも、剣で立ち向かえる怪物や悪魔を恐れることはありません。

やがて40代になったコナンは、放浪の末にハイボリア最大の王国アキロニアの玉座を武力で奪い、大帝王となります。ハワードが描いた物語は、王となる以前の放浪時代と、王位に就いてからの時代に分けられます。王となったコナンは、外征よりも国内の不満や反乱、邪悪な魔術師との対決に悩まされる姿が描かれることが多いです。

物語においては、単なる男性的活劇に留まらず、魅力的なゲストヒロインたちが重要な役割を果たし、時に彼女たちの視点から物語が描かれることもあります。彼女たちのコナンに対する態度は従順なものから打算的なものまで多様で、人間関係の複雑さが作品に深みを与えています。

ハイボリア時代を彩る諸国・集団

ハイボリア時代は、歴史研究家でもあったハワードが、クラーク・アシュトン・スミスの影響を受けて創造した疑似歴史世界です。現実世界の地名や民族名を借用しつつ、異なる時代の文明や文化が共存する独特の世界観を構築しています。主要な地域や民族には以下のようなものがあります。

ハイボリア人: 現在の西ヨーロッパに位置する白人種の主要民族。大変動後に文明を築き、アキロニア、ネメディアなどの王国を建国。主にミトラ神を信仰する。
キンメリア: アトランティス人の末裔であるコナンたちの故郷。現在の北海あたりに位置し、荒々しいクロム信仰を持つ。歴史上のキンメリアとは異なる。
スティギア王国: 現在のエジプトにあたる南方の国。影が覆う常闇の国と称され、古代エジプト風の文明を持ち、主に蛇神セトを信仰する。ネメディア人アルスと部族長ゴルムによって滅ぼされ、後のエジプト王国となる。
ヒルカニア王国: 東方の草原地帯を支配する騎馬民族。かつてスティギアに奴隷とされたレムリア人の末裔。
ノルドヘイム: 現在の北欧にあたる金髪碧眼の蛮族。氷河期が迫るハイボリア時代末期に南下し、ハイボリア文明を一掃する。
シェム: 現在の中東にあたる広範な地域。聖書に登場するセムに由来する。
ザモラ: トゥーレ人の末裔。泥棒や神秘的なイメージで描かれる国。
ジンガラ: 現在のイベリア半島にあたる国。ピクト、シェム、ハイボリア人の混血民族で、騎士や海賊が多い。
ピクト人: ハワードの別シリーズにも登場する民族。現在のブリテン島・アイルランド付近に位置し、ボディペイントを施し、自然と強く結びついている。
クシュ人: スティギア以南に広がる黒人王国。現在のサハラ以南アフリカにあたり、様々な部族が含まれる。
ヴェンドゥヤ: インドをイメージした国家。アスラ神を信仰する。

これらの多様な文化や民族が、コナンの冒険の舞台を彩り、物語に深みを与えています。

作品の出版と日本語訳

ロバート・E・ハワードによるオリジナルの「コナン」シリーズは、1932年に雑誌『ストレンジテールズ』に掲載された短編『闇の種族』（初期設定が異なる）を皮切りに、主にパルプ雑誌『ウィアード・テイルズ』で発表されました。ハワード自身が完成させた作品は21篇あり、他に未完や梗概のものが存在します。コナンの物語は時系列順に書かれていなかったことや、物語間の空白期間が長かったことから、ハワードの没後には多くの模倣作品や、既存の作品に加筆・改変を施した作品が生まれました。

日本にコナンが紹介されたのは1970年代で、アメリカで人気だったランサー・ブックス版（フランク・フラゼッタによる表紙絵が有名）と、ノーム・プレス版が翻訳されました。ハヤカワ文庫はノーム・プレス版を、創元推理文庫（旧版）はランサー・ブックス版を底本としています。特にランサー・ブックス版は、空白期間を補作で埋めてコナンの一代記として再構成する試みでした。

近年では、ハワードのオリジナル作品に忠実な日本語訳が出版されています。中村融による「新訂版コナン全集」（創元推理文庫、2006-2013年、全6巻）は、ハワードの原作のみを年代順に並べ替えた決定版とされています。さらに、中村融による全面改稿版「愛蔵版英雄コナン全集」（新紀元社、2022-2024年、全4巻）も刊行され、ハワードが描いたコナン像をより深く知ることができます。

ハワード自身の執筆過程は、着想から初期の掲載拒否、世界観を固めるエッセイの執筆、そして英国での作品展開の試みやパルプ雑誌からの収入問題など、様々な要因によって影響を受けました。西部劇など別のジャンルへの関心の高まりもあり、1935年に郵送された『赤い釘』がハワードによる最後のコナン作品となりました。

メディア展開

「英雄コナン」シリーズは、小説に留まらず様々なメディアで展開されています。

映画: アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『コナン・ザ・グレート』（1982年）、その続編『キング・オブ・デストロイヤー』（1984年）。2011年にはリブート版『コナン・ザ・バーバリアン』が制作されました。
アニメーション: 北米・カナダで『コナン・ザ・アドベンチャー』（1992-1993年）が放映されました。
コンピュータゲーム: 『CONAN』（2007年）、サバイバルゲーム『Conan Outcasts』（海外名Conan Exiles、2018年）などがあります。

「英雄コナン」は、今なお多くのファンを魅了し続ける、ファンタジー史において重要な位置を占めるシリーズです。

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