無伴奏ヴァイオリンソナタ (バルトーク)

バルトーク：無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz.117

バルトーク・ベーラが1944年に作曲した『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz.117 BB 124』は、ヴァイオリン独奏のために書かれた重要な作品です。約23分から25分程度の演奏時間を要するこのソナタは、自筆譜の記述から、1944年3月14日に完成したことがわかっています。

作曲の経緯

本作は、世界的なヴァイオリニスト、ユーディ・メニューインの依頼により作曲され、彼に献呈されました。二人の交流は、1943年の秋にメニューインがバルトークの『ヴァイオリン・ソナタ第1番』を演奏会で取り上げるにあたり、作曲者本人からの助言を得るためにバルトークを訪ねたことから始まりました。

当時、バルトークは白血病と闘病中でしたが、メニューインの訪問を心から喜び、同年11月に行われた彼の演奏会にも足を運びました。この演奏会でメニューインはバルトークのヴァイオリン・ソナタ第1番と共に、J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番を演奏しており、バルトークは後日友人宛の手紙でメニューインの演奏を深く称賛しています。

その後、メニューインから無伴奏ヴァイオリン作品の作曲を依頼されたバルトークは、快諾しました。（メニューインは後に、当初は協奏曲を考えていたものの、バルトークの健康状態を考慮してより小規模な作品に変更したことを回想しています）。前年に『管弦楽のための協奏曲』の作曲で創作意欲を再び燃え上がらせていたバルトークは、1943年末から翌年3月にかけて、周囲の配慮により静養していたノースカロライナ州アシュビルでこのソナタを書き上げました。彼はこの作品を、バッハの無伴奏ソナタを念頭に置いて作曲したとされ、作曲期間については「わずか数週間」と自身で述べています。

完成後、その年の11月26日、ニューヨークのカーネーギー・ホールにて、この作品を委嘱したユーディ・メニューインによって世界初演されました。バルトークは初演に立ち会っており、ブダペスト時代のピアノの生徒だったアメリカ在住の友人への手紙（1944年12月17日付）で、このソナタについて報告しています。彼はその手紙の中で、メニューインの演奏を「これ以上期待するものは何もないほど素晴らしい」と評し、20分を超える独奏曲であることへの懸念も杞憂に終わった、と満足感を示しました。

出版について

楽譜は、バルトークから少なくとも2年間の独占演奏権と、出版に際しての校訂全権を委任されていたメニューインの校訂により、1947年にブージー＆ホークス社から出版されました。

楽曲の特徴

バルトークのアメリカ移住後の作品については、しばしばそれ以前よりも大衆に受け入れられやすい方向へ変化した、と評されることがあります。しかし、この無伴奏ヴァイオリン・ソナタは、その傾向とは対照的に、極めて緊張感の高い音楽で構成されています。また、バルトークが積極的に対位法を自作品に取り入れていたことから、J.S.バッハと同様に無伴奏作品の作曲に非常に適した作曲家であったとの指摘も見られます。

特に第1楽章には、通常の速度標語ではなく「シャコンヌのテンポで（Tempo di ciaconna）」という異例の指示が与えられています。また、楽章の配置や構成などが、同じト短調で書かれたJ.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番と多くの類似点を持っています。興味深いのは、バルトークが若い頃は「バッハやモーツァルトよりもむしろベートーヴェンが美の理想だった」と回想しているにも関わらず、本作では明確にバッハへのオマージュを感じさせる書法を用いている点ですが、その背景にある具体的な理由は明らかになっていません。

ピアニストであったバルトークですが、民謡採集活動を通じてハンガリー農民やジプシーのヴァイオリン演奏に触れ、さらにヨゼフ・シゲティをはじめとする多くの高名なヴァイオリニストと親交があったため、ヴァイオリンの演奏技術に非常に詳しかったとされています。そのため、このソナタにも様々な高度な技巧が盛り込まれており、演奏にはかなりの困難を伴う作品として知られています。（メニューイン自身も、初めて楽譜を見た際に「冷や汗が流れた」と回想するほどでした）。

現在の出版譜には、初稿ではあまりにも演奏困難であった部分が、メニューインの要望を受けてバルトーク自身によって書き直された箇所が少なくありません。しかし、今日の版では、改訂された部分に加え、バルトークが最初に書いた初稿の楽譜も併記されており、両方のバージョンを確認することができます。

楽章構成

全体は、緩急緩急の配置による4つの楽章で構成されています。

1. Tempo di ciaconna
ト（短）調。ソナタ形式的な構造を持つ変奏曲。速度標語の代わりに「シャコンヌのテンポで」と指示されていますが、楽曲自体はいわゆるシャコンヌ形式ではありません。

2. Fuga：Risoluto, non troppo vivo
ハ長調。4つの部分に明確に分けられたフーガ。荒々しく力強い楽想が特徴です。

3. Melodia, Adagio
変ロ長調。三部形式の、瞑想的な性格を持つ楽章です。弱音器を着脱する指示がありますが、バルトーク自身も最適な表現に迷いがあったようで、メニューインに「全て弱音器を付けて弾いても、全て外して弾いても構わない」という趣旨の手紙を送っています。

4. Presto
ト長調。無窮動的な速い旋律が中心となるロンド形式です。この主要主題に加えて、舞曲風のリズミカルな主題や静かな主題が交錯します。冒頭の旋律は、初稿では微分音が指定されていましたが、あまりにも難しいために現在の出版譜では半音に変更されています。ロンド主題は弱音器を付けて演奏し、それ以外の部分は弱音器を外して演奏するため、各主題の切り替わり部分では左手でピチカートをしながら右手で弱音器の付け外しを行うという、高度な技術が要求されます。

もう一度検索