無声歯茎破擦音

無声歯茎破擦音について

無声歯茎破擦音は、舌の先端または端を歯茎のすぐ後ろに位置する歯槽堤に接触させて発音される破擦音の一種です。この音は単一の音ではなく、いくつかの種類が存在します。大きく分けて、以下の種類があります。

無声歯茎歯擦破擦音 [t͡s]: 最も一般的なタイプで、英語の「cats」のtsのように、摩擦音を伴います。
無声歯茎非歯擦破擦音 [t͡θ̠] または [t͡θ͇]: 英語の「eighth」のthに似た音で、イタリア語の一部方言にも見られます。
無声歯茎側面破擦音 [t͡ɬ]: チェロキー語、アイスランド語、ナワトル語などで使われます。
無声歯茎後方化歯擦破擦音 [t͡s̺]: バスク語に見られ、そり舌破擦音に似たシュー音を伴います。

この記事では、特に最初の2つ、無声歯茎歯擦破擦音 [t͡s] と無声歯茎非歯擦破擦音 [t͡θ̠] について詳しく見ていきます。

無声歯茎歯擦破擦音 [t͡s]

無声歯茎歯擦破擦音は、多くの言語で使われる子音です。国際音声記号では⟨t͡s⟩または⟨t͜s⟩と表記され、以前は⟨ʦ⟩または⟨ƾ⟩の合字が使われていました。この音は、多くのインド・ヨーロッパ語族（ドイツ語、ロシア語、ポーランド語など）や、ジョージア語、日本語、中国語などにも存在します。また、エスペラント語などの人工言語にも含まれています。

特徴

無声歯茎歯擦破擦音には、次のような特徴があります。

調音方法: 歯擦摩擦音であり、まず気流を完全に停止させ、次に舌を使って気流を歯の鋭い縁に導き、高周波の乱流を生じさせます。
閉鎖要素: 舌端歯茎であり、歯槽堤で舌端を使って調音されます。摩擦要素には、歯音化した舌端歯茎（非常に強いスー音）、後方化していない歯茎（歯槽堤で舌先または舌端を使用）、後方化した歯茎（[ʃ]または[ʂ]に近い）の3つの変種があります。
発声: 無声であり、声帯の振動を伴いません。一部の言語では声帯が積極的に分離しているため常に無声ですが、他の言語では隣接する音の影響で有声化することがあります。
口音: 空気が口からのみ抜けます。
中線音: 舌の中央に沿って気流が導かれます。
気流機構: 肺臓的であり、肺と横隔膜で空気を押して調音します。

無声歯茎非歯擦破擦音 [t͡θ̠]

無声歯茎非歯擦破擦音は、あまり一般的ではないですが、いくつかの言語で確認される子音です。

特徴

無声歯茎非歯擦破擦音には、次のような特徴があります。

調音方法: 破擦音であり、最初に気流を完全に妨げ、次に調音位置で狭窄された通路を空気が流れ、乱流を生じさせます。
調音部位: 歯茎であり、舌先または舌端のいずれかを使って歯槽堤で調音されます。
発声: 無声であり、声帯の振動を伴いません。一部の言語では声帯が積極的に分離しているため常に無声ですが、他の言語では隣接する音の影響で有声化することがあります。
口音: 空気が口からのみ抜けます。
中線音: 舌の中央に沿って気流が導かれます。
気流機構: 肺臓的であり、肺と横隔膜で空気を押して調音します。

言語例

以下に、無声歯茎破擦音が含まれる言語の例を示します。

ドイツ語: 「Zeit」[ˈt͡saɪt] (時間) の z
イタリア語: 「ricchezza」[rikˈkett͡sa] (富) の z
ハンガリー語: 「cukor」[t͡sukor] (砂糖) の c
リトアニア語: 「cukrus」[t͡sʊkrʊs] (砂糖) の c
ラトビア語: 「cūka」[t͡suːka] (豚) の c
ポーランド語: 「cukier」[t͡sukʲer] (砂糖) の c
ルーマニア語: 「țară」[t͡sarə]（国）のț
ロシア語: 「цвет」[t͡svʲet] (色) の ц
中国語: 有気音[t͡sʰ] (例: 餐厅 [t͡sʰǣntʰʲə̄ŋ] (レストラン) の c) と無気音[t͡s] (例: 再见 [t͡sàit͡ɕæ̀n] (さよなら) の z) の音韻対立があります。
アルメニア語: 有気音[t͡sʰ] (ց) と無気音[t͡s] (ծ) の音韻対立があります。
グルジア語: 有気音[t͡sʰ] (ც) と放出音[t͡sʼ] (წ) の音韻対立があります。
日本語: 「脱衣」[dat͡sɯi̥] の ts
朝鮮語: 「잠」[t͡sam] (眠り、北朝鮮標準発音)
スペイン語（アンダルシア方言）: 標準語の st が ts と発音される例が見られます。例：「instrumento」[int͡srumento]（楽器）。また、非常に珍しい [t͡sr] の発音も見られます。


これらの例からわかるように、無声歯茎破擦音は世界中の多くの言語で重要な役割を果たしています。音の微妙な違いを理解することで、言語の多様性をより深く理解することができます。

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