無著

無著（アサンガ）について

無著（むじゃく、又はむぢゃく）は、インドにおける大乗仏教の唯識派の開祖であり、重要な学者です。彼の生年や没年については正確な記録が残っていませんが、インド西北部に位置したガンダーラ国（現在のパキスタン、ペシャーワル地方）で生まれたとされています。無著の父はカウシカ、母はヴィリンチという名前のバラモン階級の家系に育ち、彼には2人の弟がいました。次男の弟は世親（ヴァスバンドゥ）として名を馳せ、三男は阿羅漢のヴィリンチヴァッツァとして知られています。兄弟はそれぞれ異なる名を持っていましたが、長兄と三男は特に別名で呼ばれるため、世親は主に次男を指します。

無著は初め部派仏教において出家した後、瞑想を通じて欲望からの解放を探求しました。しかし、「空」の教理を理解できず自らの生き方に悩み、自殺を考える時期もありました。そんなとき、ヴィデーハ国の賓頭羅（ピンドーラ）阿羅漢と出会い、彼によって部派の空観を習得し、新たな視点を得ることができました。

その後、無著はインド中部のアヨーディヤーに赴き、大乗仏教の教えに転じ、瑜伽行の修行に励むようになりました。伝説によれば、彼は神通力を使って兜率天に到達し、そこで弥勒（マイトレーヤ）から大乗仏教の教義を学びました。この出会いにより、無著は大乗仏教の空思想に深く親しむことができ、教義の解説を行うことになりました。これが唯識思想の普及の始まりと考えられています。

無著は弥勒から日光三昧の教えを授かり、大乗仏教の教理を理解し深く記憶しました。彼の晩年には、彼の弟であり部派仏教を誹謗していた世親を呼び寄せ、転向させることに成功しました。こうして、無著と世親は共に大乗仏教の偉大な学者として名を残しました。

主な著作

無著は多くの著作を残しており、特に以下の作品が有名です。これらの著作は唯識派の思想形成において重要な役割を果たしました。

• - 『摂大乗論』: 大乗仏教の基礎的な教義をまとめた作品。
• - 『顕揚聖教論』: 大乗教義を明示し、信者に対して教えを広める役割を果たしたもの。
• - 『大乗阿毘達磨集論』: 阿毘達磨の教えを扱った作品。
• - 『順中論義入大般若波羅蜜経初品法門』: 般若の教えに関する考察を行ったもので、通称『順中論』とも呼ばれています。
• - 『六門教授習定論』: 瞑想や教義の理解を促進するためのテキスト。
• - 『金剛般若論』: 金剛般若の教義に関する考察。
• - 『大乗荘厳経論』: 主に大乗経典に対する解釈を提供するもので、漢訳では無著の作とされていますが、チベット語では韻文が弥勒の作、散文が世親の作とされています。

無著の多様な著作を通じて、彼は大乗仏教の教義の普及に貢献し、その後の仏教界に多大な影響を与えました。彼の生涯は、信仰と探索の結晶であり、多くの人々にインスピレーションを与えています。

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