国崎町

三重県鳥羽市国崎町：歴史と文化が息づく海の町

国崎町は、三重県鳥羽市の南東部に位置する、紀伊半島と志摩半島の最東端に位置する町です。その名の通り、「国の先」に位置することから名付けられました。美しい海岸線と豊かな自然に恵まれ、古くから伊勢神宮への献上物を調製する地として栄えてきました。特に、アワビは国崎町を代表する特産品であり、その品質の高さは全国的に知られています。

地理

鳥羽市の南東端に位置し、太平洋に面した海岸線は断崖が多く、海の難所として知られています。集落は海岸段丘に沿って形成され、その背後には畑作地が広がっています。水田はわずかな窪地や谷あいに帯状に存在しています。背後には広大な森林地帯が広がっていますが、土地の栄養分が乏しいため、林業はあまり発達していません。鎧崎、剣崎といった岬が、この地の特徴的な景観を形作っています。

国崎町は、海間谷と里谷の2つの谷に分かれ、さらにそれぞれが2つの「ハイ」に区分されています。この「ハイ」は、他の地域でいう「組」にあたります。北と西は浦村町、北東は石鏡町、南は相差町と隣接しています。

歴史

古代から中世

古代より、伊勢神宮に献上する熨斗鮑（のしあわび）などの御贄を産出する地として知られていました。神代には、倭姫命がこの地を訪れ、海女のお弁が獲った鮑を献上したと伝えられています。鎧崎や大津などで遺跡が発見されており、古くから人々が居住していたことが伺えます。古記録には「国崎神戸」と記されており、志摩国における重要な御饌の供進地の一つでした。

12世紀初頭の記録には、内宮や外宮への供祭物として、水取鮑、玉抜鮑、甘掻鮑などが納められ、住民には労役が課せられていました。また、国崎の船に関する記録も残っており、中世には内宮への献上物を運ぶための船が活躍していました。鎌倉時代には伊勢神宮の権力が低下しましたが、国崎では神宮から離脱しようとはせず、神宮の威を借りて漁場を独占的に利用していたと考えられています。

近世

江戸時代には、鳥羽藩の支配下にあり、国崎村として存在していました。17世紀には神領への復帰を申し立てるも、石鏡村との境界争いにより、神宮との関係が悪化しました。その後、神宮からの対価を得て献上を続けたり、鳥羽藩の圧力により献上を続けました。宝永地震による津波で漁船や漁具が流失し、生活が困窮したため、農業へと転換する動きが見られました。

近代から現代

明治維新後、行政区分の変更を繰り返しましたが、町村制施行時に相差村などと合併し、長岡村の大字国崎となりました。その後、昭和の大合併で鳥羽市の一部となり、国崎町となりました。伊勢神宮への献上は制度としては廃止されましたが、その後も国崎の熨斗鮑は献上され続けました。明治時代には、海女の集団出稼ぎが始まり、北海道や三陸海岸など、各地でアワビやテングサを採取するようになりました。戦後は、観光業が盛んになり、旅館や民宿などが開業し、パールロードには鳥羽展望台が建設されました。

生活慣習

国崎町には、両墓制や隠居制度が残っており、地縁、血縁、年齢階梯によって生活秩序が保たれてきました。また、海女に関連する祭りも多く、1月2日にはアワビ採取の真似事をして豊漁を願う「磯端はじめ」が行われます。1月6日には「海の七草」を刻み、翌日七草粥にして食べる「ナナクサタタキ」という風習も残っています。近年では、この七草を乾燥・粉末化した商品が開発され、新たな特産品として注目されています。

経済

国崎町の基幹産業は水産業であり、特にアワビの採取が盛んです。農業も行われており、近年では米やタマネギ、サツマイモなどが栽培されています。漁業では、男性は刺網などの沿岸漁業、女性は海女漁業に従事します。また、近隣では珍しい男性の海士も存在します。

国崎の漁場は、8つの区画に細分化され、輪番制で使用されています。禁漁区には規定以下のアワビを放流することで、資源の保護にも努めています。国崎漁港は、1953年に指定された漁港であり、長年の改修工事を経て現在の形となりました。

交通

交通の便は、陸上・海上ともに恵まれているとは言えません。道路は狭く坂道が多く、路線バスの終点である国崎バス停から、集落の奥までは徒歩で移動する必要があります。

施設

国崎町には、海女の祖とされるお弁を祀る海士潜女神社や、曹洞宗の常福寺があります。また、国崎の熨斗鰒づくりや、藁の船で正月の神を送る行事「国崎のノット正月」は、文化財に指定されています。鳥羽市立国崎小学校は2011年に廃校となり、現在は別の小学校に統合されています。

その他

国崎町は、その独自の文化と伝統を守りながら、現代の生活を営む人々の姿が魅力的な町です。美しい海と自然、そして温かい人々との触れ合いを求めて、多くの観光客が訪れます。

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