熱海大火

熱海大火（あたみたいか）

熱海大火は、1950年（昭和25年）4月13日に静岡県熱海市の市街地中心部で発生した、戦後日本における代表的な都市火災の一つです。この火災により、温泉街として発展していた熱海は甚大な被害を受けました。

火災の発生と拡大

火の手が上がったのは、1950年4月13日の午後5時15分頃のことです。発生場所は、相模湾に面した熱海市渚町の埋立地の北東部でした。当時、この場所で作業員がトラックへのガソリン給油を行っており、その際に使用していたタバコ、もしくはそれに火をつけたマッチから飛び散った火花がガソリンに引火したことが、火災の直接的な原因とされています。

出火後、炎は海から吹き付ける非常に強い風によって瞬く間に煽られました。その風速は15メートルを超えるという記録もあり、炎は猛烈な勢いで周囲に延焼していきました。火災は、渚町の糸川より北側の全域に加え、当時の市街地の核であった現在の銀座町や中央町に相当するエリアのほぼ全て、さらに清水町や昭和町の一部にも広がり、市街地を焼き尽くしていきました。火勢は夜遅くまで衰えず、最終的に火災が鎮火したのは発生から約7時間後の午後12時でした。

被害の状況

この大火災によって、熱海市の中心部は壊滅的な被害を受けました。

焼失建物: 47軒の温泉旅館を含む、市役所、郵便局、公会堂、警察署、消防署、病院、百貨店、さらには多数の住宅など、合計で1,015棟もの建物が炎に呑み込まれました。
被災者: 1,461世帯、総勢4,817人が家屋や生活基盤を失い、被災者となりました。
負傷者: 979人が重軽傷を負いました。
死者: 幸いにも、この大火における死者はゼロでした。これは、早期の避難や、消防・救助活動などが功を奏した結果と考えられます。

しかし、千棟を超える建物が焼失し、数千人の市民が住まいを失ったという事実は、当時の熱海にとって計り知れない打撃でした。

復興への道のり

大火からの復興は、迅速に進められました。

火災発生の翌日、4月14日には緊急の市議会が開催されました。この中で、火災の被害が拡大した要因として、入り組んだ狭い道路、建物が密集していたこと、そして防火設備が不足していたといった、熱海市の都市構造上の問題点が指摘されました。そして、今後の復興にあたっては、耐火性の高い建築物の推進や、主要道路の拡幅といった、防災を意識した都市計画の重要性が確認され、具体的な再建策が決定されました。

さらにその翌日、4月15日には、建設省（現在の国土交通省）、静岡県、熱海市の幹部が集まり、市街地の再建案について徹夜での徹底的な議論が行われました。この議論を経てまとめられた再建案は、翌16日の市議会で発表され、早期の復興に向けた具体的な道筋が示されました。

被災した熱海市の復興を支援してもらうため、宗秋月市長をはじめとする市関係者や、ほとんどの市議会議員、そして静岡県知事や担当者ら約50名が、4月17日には東京都へ赴き、国に対して強力な支援を要請しました。翌18日には、市長と市議団が国会を訪問し、熱海の復興を国の特別な施策として進めるための「熱海国際観光温泉文化都市建設法」という特別法の制定を強く陳情するなど、積極的な働きかけが行われました。

こうした動きに加え、地元選出の静岡県議会議員である山田弥一氏は、県からの財政的な支援を確保しました。また、当時の国会議員であった畠山鶴吉氏、小松勇次氏らの尽力により、被災した人々、特に家屋を借りていた借家人や土地を借りていた借地人の居住権などを保護するための「罹災都市借地借家臨時処理法」の適用が決定されるなど、法的な側面からも被災者の生活再建を支える施策が講じられました。

熱海大火は、戦後の復興期にあった日本で発生した大規模火災として、防災を考慮した都市計画の重要性を改めて浮き彫りにする出来事となりました。そして、その後の熱海の街並みは、この大火からの教訓を活かし、防災機能の向上を目指して再建されていきました。

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