牛島定信

牛島 定信

牛島 定信（うしじま さだのぶ）は、1939年（昭和14年）2月1日、福岡県に生まれた日本の著名な医学者、精神科医、そして精神分析家である。特に精神医学、精神分析学、対象関係論の分野で長年にわたり研究と臨床に携わり、教育者としても多くの後進を育成した。

経歴

牛島氏は1963年（昭和38年）に九州大学医学部を卒業後、同大学の精神神経科学教室に進み、大学院で精神医学の研鑽を積んだ。この間、副助手、助手として教育・研究活動に従事した。1969年（昭和44年）には国立肥前療養所に勤務し、厚生技官、医長として臨床経験を深めた。1970年（昭和45年）には九州大学より医学博士（課程博士）の学位を取得している。

1973年（昭和48年）からは1年間、イギリスにあるキングス・カレッジ・ロンドン精神医学研究所（IoP）に留学し、国際的な視点から精神医学を学んだ。帰国後、1974年（昭和49年）に福岡大学医学部精神医学教室に着任し、講師、助教授を経て教授に昇任。約17年間にわたり、福岡の地で教育、研究、臨床の中心的役割を担った。

1991年（平成3年）には東京に移り、東京慈恵会医科大学精神医学講座の教授に就任。ここではさらに高度な臨床と研究を進め、多くの精神科医を育てた。2004年（平成16年）からは同大学の客員教授を務めた。その後、2005年（平成17年）に東京女子大学文理学部心理学科の教授に就任し、2008年（平成20年）からは同大学大学院の特任教授として、心理学分野における精神医学の教育にも携わった。

現在も、精神保健指定医、精神科専門医・指導医として、臨床活動を続けている。

業績と活動

牛島氏の専門分野は精神医学、中でも精神分析学と対象関係論、そしてパーソナリティ障害に造詣が深い。特に境界性パーソナリティ障害に関する研究や臨床においては、日本の第一人者の一人として知られている。

学会活動にも積極的に取り組み、主要な精神医学・精神分析関連の学会で要職を歴任した。具体的には、日本精神分析学会元会長、日本森田療法学会元理事長、日本児童青年精神医学会元理事長、日本サイコセラピー学会元理事長などを務め、これらの分野の発展に大きく貢献した。また、日本精神衛生会の理事長として、国民の心の健康向上にも尽力している。日本精神分析協会正会員、訓練分析家でもある。

2006年には森田療法における顕著な貢献を称えられ、森田正馬賞を受賞した。

著作活動

牛島氏は多岐にわたるテーマで多数の単著、共編著、翻訳書を世に送り出している。主な単著としては、『思春期の対象関係論』、『境界例の臨床』、『対象関係論的精神療法』などがあり、精神分析的視点からみた心の病理や治療について詳細に論じている。パーソナリティ障害に関する解説書や監修書も多く出版しており、『境界性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』、『図解やさしくわかるパーソナリティ障害』などは、専門家だけでなく一般読者にも理解しやすい内容となっている。

また、国内外の研究者との共編著も多数あり、精神科の臨床、児童青年精神医学、精神保健など、幅広い分野で専門的な知見を提供している。特に『ウィニコットの遊びとその概念』（北山修共編）や『境界例 パーソナリティの病理と治療』（館直彦と責任編集）などは、特定のテーマを深く掘り下げた著作である。

海外の精神分析文献の翻訳にも精力的に取り組み、D.W.ウィニコットやメラニー・クライン、E.ジェイコブソンといった、精神分析学における重要な人物たちの著作を多数日本に紹介した。これらの翻訳は、日本の精神分析学の発展に不可欠な貢献となっている。例えば、ウィニコットの『情緒発達の精神分析理論』やクライン著作集の編訳などがある。

日本の精神医学、特に精神分析学、精神療法、パーソナリティ障害の分野において、研究、臨床、教育、啓発活動を通じて多大な貢献を果たした人物である。

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