特定都市鉄道整備促進特別措置法

特定都市鉄道整備促進特別措置法とは

特定都市鉄道整備促進特別措置法（以下、特措法）は、大都市圏における鉄道輸送能力の増強を円滑に進めるため、1986年に制定された日本の法律です。この法律は、鉄道事業者が輸送力増強のための設備投資を行う際の資金調達を支援し、都市部の鉄道網の発展を促進することを目的としています。

制定の背景

都市部における鉄道輸送需要の増大に対応するためには、列車の増発や複線化、長編成化といった輸送力増強策が必要です。しかし、これらの対策には莫大な費用がかかり、鉄道事業者の経営を圧迫する要因となっていました。

従来、鉄道事業者が資金を確保する方法としては、以下の3つが考えられていました。

1. 公的資金の投入（税金など）
2. 社債の発行や借入金の増大
3. 運賃の値上げ

しかし、これらの方法にはそれぞれ問題点がありました。

公的資金の投入は、民間の鉄道事業者には適用されにくい場合がありました。
借入金は金利負担が大きく、経営を圧迫する可能性がありました。
運賃の値上げは、利用者の反発や競合路線への旅客流出を招く恐れがありました。

特に、運賃値上げは、インフレ率が高かった高度成長期には、公共料金の値上げに対する批判が高まり、政治問題化することも少なくありませんでした。

こうした状況を打開するため、特措法が制定されました。

仕組み

特措法では、工事の恩恵を受ける路線の利用者が、運賃に一定額を上乗せして支払うことで、積立金を作成します。この積立金は工事費の一部に充当され、工事完了後には、上乗せされていた運賃分が、一定期間、運賃を値下げすることで利用者に還元されます。

この仕組みにより、鉄道事業者は、一時的な運賃値上げで必要な資金を確保し、工事完了後には運賃を平準化することができます。また、積立金は無利子であるため、借入金のように金利負担が発生することもありません。

ただし、特措法に基づく運賃の上乗せと還元は、あくまで当該事業に限定されたものであり、通常の運賃改定とは別物です。

法律の概要

特措法の主な内容は以下の通りです。

鉄道事業者は、一定の条件を満たす工事について、運賃に上乗せした金額を積立金として積み立てることができます。
積立金の総額は、工事費の一定割合（当初は1/4、後に1/2に引き上げ）を上限とします。
積立金と同額を、税制優遇措置のある準備金として積み立てる必要があります。
工事完了後には、準備金を取り崩し、運賃値下げなどの形で利用者に還元します。
対象工事は、工事費が1年間の旅客運送収入以上であることが条件です。

適用事業区間

特措法は、主に以下の鉄道事業者の路線に適用されました。

東武鉄道
伊勢崎線、野田線、東上本線
西武鉄道
池袋線、新宿線
京王電鉄
京王線、井の頭線
小田急電鉄
小田原線
東京急行電鉄
目黒線、東横線、大井町線、田園都市線

これらの路線では、複線化、複々線化、連続立体交差化、長編成化といった工事が行われ、輸送能力の向上が図られました。

問題点

特措法には、以下のような問題点も指摘されています。

事業期間が長期化することがあり、準備金の取り崩しが計画通りに進まない場合がある。
運賃の上乗せは、通勤定期のみが対象であり、通学定期や障害者割引定期は対象外である。
* JRグループは、事業規模が大きいため、実質的に適用が不可能である。

新規事業認定の終了

特措法に基づく税制優遇措置が廃止されたため、2005年以降、特措法に基づく新規事業の認定は事実上終了しました。

まとめ

特定都市鉄道整備促進特別措置法は、大都市圏の鉄道輸送力増強に貢献した重要な法律です。この法律により、鉄道事業者は資金調達の負担を軽減し、都市部の鉄道網の発展を促進することができました。しかし、制度上の課題や、社会情勢の変化に伴い、新規事業認定は終了しています。この法律は、都市部の交通政策を考える上で、重要な教訓を与えてくれるでしょう。

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