狂つた一頁

劇映画『狂つた一頁』の概要と影響

1926年9月に公開された『狂つた一頁』（くるったいちぺいじ）は、日本のサイレント映画として新たな一歩を踏み出した作品です。監督は衣笠貞之助が務め、主演は井上正夫。当時、横光利一や川端康成などの新感覚派の作家たちと共に結成された新感覚派映画聯盟の第一作であり、日本初の本格的な前衛映画（アヴァンギャルド映画）として位置づけられています。

物語は、精神病院を舞台に、過去の心的外傷に苦しむ妻を見守る小使の老人を描いた家庭悲劇です。過去と現在、幻想と現実、狂気と正気が交錯する中、物語はつむがれていきます。本作は、松沢病院を見学した衣笠の発案から生まれ、主に川端康成をはじめとする文学者たちが共同で脚本執筆を行い、1926年5月から撮影が始まりました。撮影は松竹下加茂撮影所で行われ、同年9月には新宿の洋画専門館などで封切られましたが、興行的には失敗に終わりました。

際立った映像表現と技法

作品は1920年代のヨーロッパの前衛映画運動の影響を大いに受けています。特に、ドイツ表現主義映画やフランス印象主義映画の技法が多く使用されました。照明のコントラストや、短いショットをリズミカルにつなぐ手法であるフラッシュ、フラッシュバックやオーバーラップ、多重露光といった映画的技法が駆使され、映像表現の純粋性が追求されています。特にサイレント映画として全編無字幕で上映される試みが印象的でしたが、活動弁士による説明が伴ったため、純粋性が損なわれたという批判も受けました。

ストーリーの核心

物語は深夜の精神病院から始まります。外で激しい雨が降る中、踊り続ける女性患者がいます。その病院で小使として働く老人は、彼の妻である狂人の女性を見つめ続けます。彼女は、夫を認識することができず、過去の悲劇が二人を引き裂いてしまったのです。小使は妻を見守り続けながら、自責の念に駆られ、病院に働きに来ることを選びました。

物語は、娘が病院を訪れたことで展開が進みます。母を見失った娘は、父親の存在に驚き、怒りを感じます。やがて、病院内の混乱により、物語はクライマックスへと向かいます。小使は妻を病院から逃がそうと奮闘しますが、暗闇を恐れた妻は再び病室に戻ります。この際立った緊張感が物語の強いドラマを生み出しています。

作品の再発見と評価の変遷

公開後、長らく失われた映画と見なされていましたが、1971年に衣笠が自身の自宅でフィルムを発見しました。これを基に再編集された「ニュー・サウンド版」が1975年に公開され、国際的にも評価を受けました。日本映画史において記念碑的な存在とされ、映画研究者の間で高く評価されています。

まとめ

『狂つた一頁』は、日本映画史に新しい風を吹き込む作品であり、初めて精神病院を舞台としたことや、映像表現の革新性が特に注目されています。前年に公開された『カリガリ博士』に強く影響を受けつつ、独自の視点を持つこの作品は、観る者に強烈な印象を残します。日本映画界でアヴァンギャルド映画の先駆けとなった本作は、今後も多くの映画ファンに愛される存在であり続けることでしょう。

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