猪鹿牧

猪鹿牧（いがのまき）

猪鹿牧は、信濃国安曇郡、現在の長野県安曇野市穂高牧に存在した勅旨牧です。信濃十六牧の一つとして知られ、その歴史は古く、古代から朝廷に馬を献上する重要な役割を担っていました。

地理的特徴

牧の西には雄大な北アルプスがそびえ立ち、周辺には烏川や川窪沢川が流れています。特に烏川谷の扇状地は、奥が開けた地形であり、広大な放牧地として最適な場所でした。この豊かな自然環境が、良質な馬を育むのに適していたと考えられます。

歴史

『政事要略』によると、猪鹿牧は毎年8月15日の宮中駒牽の儀のために貢馬を献上する勅旨牧の一つに数えられていました。承久7年（1225年）の駒牽にも貢馬の記録が残っており、信濃国内でも有力な牧であったことが窺えます。また、穂高神社に伝わる文亀元年（1051年）の『三宮穂高社御造宮定日記』にも「伊鹿牧」の記述が見られ、古くからこの地が牧として利用されていたことがわかります。

現在、牧の地籍には、8世紀の猪鹿牧に関わる氏族のものと推定される古墳が12基存在しており、この地が古代から重要な場所であったことを物語っています。

信濃十六牧

『延喜式』には、信濃国に存在した16の牧、いわゆる「信濃十六牧」が記録されています。それらは、大室牧、高井牧（高井郡）、笠原牧、平井手牧、宮処牧（伊那郡）、新張（新治）牧（小県郡）、塩原牧、岡屋牧、山鹿牧（諏訪郡）、望月牧、長倉牧、塩野牧（佐久郡）、埴原牧、大野牧（筑摩郡）、そしてこの猪鹿牧（安曇郡）、萩倉牧です。

信濃十六牧以外にも、甲斐に3牧、上野に9牧、武蔵に4牧が存在し、信濃と甲斐は左馬寮が、武蔵と上野は右馬寮が所管していました。『延喜式』の時代以降、牧の数は増加したとされています。

まとめ

猪鹿牧は、信濃国における重要な勅旨牧の一つであり、その豊かな自然環境と歴史的な背景から、古代から馬の生産に重要な役割を果たしていました。現在も残る古墳群は、その歴史を物語る貴重な証拠となっています。

関連情報

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