埴原牧

埴原牧（はいばらのまき）

概要

埴原牧は、信濃国筑摩郡（現在の長野県松本市中山・内田周辺）に存在した勅旨牧です。信濃国には16の勅旨牧があり、その一つとして重要な役割を果たしていました。これらの牧では、朝廷に献上する馬が育てられていました。毎月4月には、信濃国全体で80疋の馬が都に献上されることが定められていました。

『延喜式』には、信濃国内の16の牧が記録されています。具体的には、大室牧・高井牧（高井郡）、笠原牧・平井手牧・宮処牧（伊那郡）、新張（新治）牧（小県郡）、塩原牧・岡屋牧・山鹿牧（諏訪郡）、望月牧・長倉牧・塩野牧（佐久郡）、埴原牧・大野牧（筑摩郡）、猪鹿牧（安曇郡）、萩倉牧です。これらの牧は、古代の律令制度下で、朝廷の重要な財源であり、軍馬を供給する役割も担っていました。

鎌倉時代に入ると、これらの牧の多くは荘園化が進みました。16牧のうち13牧が荘園となり、その管理体制や役割も変化していきました。

信濃国以外にも、甲斐国に3牧、上野国に9牧、武蔵国に4牧の勅旨牧が存在しました。これらの牧は、左馬寮と右馬寮によって管理されていました。具体的には、信濃と甲斐の牧は左馬寮が、武蔵と上野の牧は右馬寮が管轄していました。

『類聚三代格』に収録されている太政官符によると、延暦16年（797年）には、御牧の長官である監牧（のちの牧監）に対して、筑摩郡埴原の牧田6町が公廨田として与えられました。また、埴原からは牧監庁の礎石と見られる遺構が発掘されており、牧監庁が埴原牧に置かれていたことが示唆されています。この牧監庁は、承久の乱後に廃止されたと考えられています。

『吾妻鏡』の文治2年（1186年）の記録には、左馬寮が管理する信濃の御牧が28牧あったとされていますが、その中に埴原牧の名前は見られません。しかし、筑摩郡の御牧として記録されている南内・北内という2つの牧が、埴原牧が発展したものだと考えられています。これは、埴原牧が単独の牧場としてではなく、より広範な地域を管理する牧場群の一部となった可能性を示しています。

信濃の勅旨牧は、いずれも左馬寮の荘園となりました。康永3年（1344年）には、信濃の知行国主である久我長通が「国衙の機能が形骸化している状況を利用して、左馬寮の寮家である洞院家が信濃の国衙牧を横領している」と主張しました。これは、勅旨牧の管理を巡る、朝廷内部での権力争いが存在したことを示しています。

宮廷行事の駒牽（こうけん）は、信濃などの東国から献上された馬によって行われていました。この献上馬は、国衙牧から国役として貢上される「国司分」と、左右馬寮の寮家が所領から調達する「寮家分」がありました。このように、勅旨牧は朝廷の儀式を支える重要な役割も担っていました。

参考文献

塚田正朋『長野県の歴史』山川出版社、1974年5月、桐原健執筆部分
『長野県史 通史編 第3巻 中世2』1987年
あずさ書店編集部『幻の大寺院 若沢寺を読みとく』あずさ書店、2010年9月、ISBN 9784900354678

関連項目

勅旨牧
* 牧

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