大野牧

大野牧（おおののまき）について

大野牧は、信濃国筑摩郡（現在の長野県松本市波田周辺）に存在したとされる勅旨牧（ちょくしまき）です。信濃国には16の勅旨牧が存在したとされ、そのうちの一つです。

概要

大野牧は、文献にはその名前が記録されているものの、具体的な場所は特定されていません。現在の松本市波田、安曇、和田地区から、東筑摩郡山形村にかけての地域にあったと考えられています。周辺の埴原牧や猪鹿牧では、牧の存在を示す古墳群が発見されていますが、大野牧があったとされる地域では古墳が見つかっていません。このことから、大野牧の成立は、646年の大化の薄葬令以降であるとする説があります。

大野牧の荘園化

『貞観寺領目録』（872年）には、「信濃国 大野庄 百二町二段五十歩 在筑摩郡」という記述があります。この記述から、大野牧の牧長であった秦氏が、牧内の水利の良い土地を開発し、右大臣藤原良相に寄進して荘園としたことがわかります。さらに、この荘園は貞観9年（867年）に、天皇の祈願寺であった貞観寺に寄進されました。このような複雑な手続きを経て、大野牧は荘園として不輸租・国司不入の特権を得ることになりました。荘園の領家は藤原氏、下司には秦氏が任命され、荘園の実質的な支配権を握ったと考えられています。この荘園は、信濃国における初期荘園の中でも古いものの一つであり、荘域は202町と記録されています。

鎌倉時代の記録

鎌倉時代には、『吾妻鏡』の文治2年（1186年）3月12日条に、後白河法皇から源頼朝に示された「関東御知行国々内乃具未済庄々注文」の中に、左馬寮領の大野牧としてその名が登場します。この記録から、大野牧が鎌倉時代までその名残をとどめていたことがわかります。

信濃国の他の牧

『延喜式』には、大野牧を含め、信濃国に以下の16の牧があったと記録されています。

大室牧・高井牧（高井郡）
笠原牧・平井手牧・宮処牧（伊那郡）
新張（新治）牧（小県郡）
塩原牧・岡屋牧・山鹿牧（諏訪郡）
望月牧・長倉牧・塩野牧（佐久郡）
埴原牧・大野牧（筑摩郡）
猪鹿牧（安曇郡）
萩倉牧

「牧」には、勅旨牧以外にも、兵部省管轄下の官牧（諸国牧・近都牧）が存在しました。

まとめ

大野牧は、信濃国における古代の牧の一つであり、その存在は文献を通して知られています。荘園化や鎌倉時代の記録にもその名を見ることができ、古代から中世にかけての歴史を考える上で重要な存在です。

参考文献

あずさ書店編集部 『幻の大寺院 若沢寺を読みとく』 あずさ書店、2010年9月、ISBN 9784900354678
塚田正朋 『長野県の歴史』 山川出版社、1974年5月、桐原健執筆部分

関連項目

勅旨牧
牧

もう一度検索