勅旨牧

勅旨牧について

概要

勅旨牧（ちょくしまき）は、奈良時代に文武天皇の勅命によって開設された牧です。軍馬などの供給源として、馬寮などが利用していました。御牧（みまき）とも呼ばれます。当時、官牧には勅旨牧の他に、諸国牧や近都牧がありました。

日本では、古墳時代に馬具が副葬品として見られることから、この頃には乗馬文化が導入されていたと考えられています。軍事利用の目的で馬の育成が各地に広まり、特に東国で盛んになりました。ヤマト王権では、推古朝の頃には馬を管理する官職が存在し、畿内の有力豪族が馬産を行っていました。地方でも、在地首長が乗用馬を生産し、律令制下では中央に馬を貢納するようになりました。

勅旨牧は、奈良時代後期に牧の管理を行っていた兵部省から独立して設置されたと考えられています。この時期、諸国や牧からの貢馬が滞りがちになり、藤原仲麻呂の乱などによって、天皇を守るための直轄軍備の必要性が高まりました。そのため、当初は天皇直属の厩を管理する内厩寮の下に置かれました。

勅旨牧の設置場所と管理

『延喜式』によると、勅旨牧は信濃（16ヶ所）、甲斐（穂坂牧、真衣野牧、柏前牧の3ヶ所）、上野（9ヶ所）、武蔵（石川牧、小川牧、由比牧、立野牧の4ヶ所）の4ヶ国に設置されました。信濃と甲斐は左馬寮、上野と武蔵は右馬寮が管轄しました。承平年間には、武蔵国に阿久原牧と小野牧の2ヶ所が追加されました。この2つの牧は、宇多院と陽成院が所有していた牧が編入されたとされています。特に、宇多院は信濃・武蔵両国の国司の任免に関与していたため、勅旨牧の経営にも関わっていた可能性が指摘されています。

勅旨牧には、各令制国に牧監（もくげん）が置かれました。ただし、武蔵国では各牧単位で別当が設置されました。牧監や別当は、中央官庁から一定の任期で派遣され、馬寮と兵部省によって監督されていました。

勅旨牧の役割

毎年8月には、勅旨牧から中央へ貢馬を献上する儀式である駒牽が行われました。当初は、甲斐から60疋、信濃から80疋、上野から50疋、武蔵から50疋、合計240疋が献上されました。武蔵に2つの牧が追加された後は、さらに60疋が追加され、合計300疋が毎年朝廷に献上されるようになりました。献上された馬は、平安京周辺に馬寮が設置した「飼養牧」で飼育され、公務や儀式に使用されたり、公卿や近衛府に下賜されたりしました。

勅旨牧の衰退とその後

勅旨牧は、天慶の乱など軍事的な緊張が高まった10世紀前半に最も充実したと言われています。しかし、その後は衰退しました。ただし、馬寮の荘園や牧場として鎌倉時代まで残された所もあり、牧監や別当を務めた在庁官人の中には武士として成長する者もいました。信濃御牧の牧監と伝えられる滋野氏の流れをくむ一族からは、近世大名となる真田氏が出ています。また、信濃十六牧の筆頭とされる「望月牧」を支配した望月氏の支流は、飼養牧があった甲賀の地で甲賀五十三家（甲賀流忍者）筆頭の近江望月氏となりました。

関連項目

諸国牧
牧

もう一度検索