猿橋
猿橋（さるはし、えんきょう）
山梨県大月市猿橋町にある猿橋は、桂川に架かる独特な構造を持つ刎橋（はねばし）です。この橋は、その特異な構造と歴史的価値から、国の名勝に指定されています。
概要
猿橋は、江戸時代には「日本三奇橋」の一つとして知られ、甲州街道における重要な橋でした。現在は人道橋として利用されており、上流と下流にはそれぞれ山梨県道505号線と国道20号線が通る新猿橋が架かっています。橋の長さは約30.9メートル、幅は約3.3メートルで、水面からの高さは約31メートルです。深い谷に橋脚を設ける代わりに、両岸から四層に重ねられた「刎木」と呼ばれる支え木を張り出し、その上に橋を架けるという、非常に特殊な構造を持っています。
構造
猿橋は、桂川の両岸が崖となって狭まっている場所に架けられています。この地形を利用することで、橋脚を河原に下ろすことなく、高い場所に橋を架けることが可能となり、洪水の影響を避けることができます。このような場所に橋を架けるためには、橋脚なしで橋を支える技術が必要であり、日本では刎橋という形式が用いられました。刎橋では、岸の岩盤に穴を開けて刎木を斜めに差し込み、その上にさらに刎木を重ねて、中空に橋を張り出していきます。この刎木の構造は、橋を支えるだけでなく、屋根を設けることで雨による腐食からも保護しています。
歴史
起源と中世の猿橋
猿橋が架けられた年代は正確には不明ですが、地元の伝説によると、古代に百済から来た造園師の志羅呼が、猿が互いに体を支え合って橋を作っているのを見て、この橋を造ったとされています。この伝説が「猿橋」の名前の由来となっています。室町時代には、この地で関東公方の足利持氏と甲斐の武田信長勢との合戦が行われました。また、文明19年には聖護院道興がこの地を訪れ、猿橋に関する伝承と和歌を記録しています。戦国時代には、小山田信有によって猿橋の架け替えが行われ、武田信虎が同盟国を支援するために猿橋に陣を構えた記録も残っています。また、猿橋には永昌院の寺領も存在していました。
近世の猿橋
1676年以降、猿橋の架け替えの記録が残っており、少なくとも1756年からは現在の刎橋に近い形式であったと考えられています。猿橋は江戸時代に日本三奇橋の一つとして有名になり、多くの文人や浮世絵師がこの地を訪れました。葛飾北斎や歌川広重も猿橋を描いた作品を残しており、その独特な景観は多くの人々に愛されてきました。
近現代の猿橋
明治時代には、富岡鉄斎がこの地を訪れ、猿橋の絵を残しています。1880年には明治天皇が山梨県を巡幸した際に猿橋を渡り、その様子は絵にも描かれました。1932年には国の名勝に指定されましたが、当初は管理者が不在であったため、修理のための補助金が受けられない状況が続きました。1963年に大月市の所有となり、現在に至っています。1934年には上流に新猿橋が、1973年には下流に別の新猿橋が架けられましたが、現在の猿橋は1984年に架け替えられたものです。なお、かつては中央本線の車窓から猿橋を眺めることができましたが、複線化の際にルートが変更され、現在は見ることができません。
アクセス
参考文献
- - 松村博『日本百名橋』、鹿島出版会、1998年。
- - 『日本歴史地名大系19 山梨県の地名』平凡社、1995年
- - 丸島和洋『中世武士選書19 郡内小山田氏 武田二十四将の系譜』戎光祥出版、2013年
- - ロム・インターナショナル（編）『道路地図 びっくり!博学知識』河出書房新社、2005年。
関連項目
外部リンク
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