玄宮園

玄宮園：彦根城に寄り添う名勝庭園

滋賀県彦根市の金亀町に位置する玄宮園（げんきゅうえん）は、かつて彦根藩主の居城であった彦根城の敷地内に広がる旧大名庭園です。この庭園は、国の特別史跡「彦根城跡」の区域に含まれており、隣接する御殿エリアである楽々園とともに、国の名勝「玄宮楽々園」として一体的に指定されています。さらに、2015年には「琵琶湖とその水辺景観－ 祈りと暮らしの水遺産 」を構成する文化財の一つとして、日本遺産にも認定されており、その歴史的・文化的価値は広く認められています。

玄宮楽々園は、趣を異にする二つの部分、「玄宮園」と「楽々園」によって構成されています。現在、一般的に「玄宮園」として親しまれている庭園の原型がいつ、どの程度の規模で造営されたかは明確ではありませんが、彦根藩の四代藩主、井伊直興公によって江戸時代初期の延宝年間（1678年頃）にその基礎が築かれたと考えられています。その後、江戸時代後期の文化年間（1813年）、第十一代藩主の井伊直中公が隠居するにあたり、庭園は大幅に再整備され、現在の姿に近い形に整えられたといわれています。「玄宮園」という名称は、御殿部分である「楽々園」と対比させる形で用いられるようになったものですが、この呼称が定着した正確な時期は詳らかではありません。

玄宮園が位置するのは、彦根城の北東部にあたる「第二郭」と呼ばれる曲輪（くるわ）内です。ここは城の内濠と、かつて琵琶湖の入江であった松原内湖に挟まれた場所でした。築城当初は、藩の重臣である川手主水の屋敷が建てられていましたが、大坂夏の陣で主水が戦死して以降は空き家となり、寛永元年（1624年）頃には下屋敷が建設されたと伝えられています。入江側は1940年代に干拓が進み、現在は庭園の間近まで陸地化されていますが、往時は庭園の北側に設けられた水門から舟を出し、琵琶湖へ直接漕ぎ出すことが可能でした。

庭園の中心には広大な池、「魚躍沼（ぎょやくしょう）」が配されており、その水面が庭園全体の景観を特徴づけています。池の東部から北部にかけては築山が築かれ、池の中には元島や新島を含む四つの中島が点在しています。池の畔には、臨池閣（りんちかく）や鳳翔台（ほうしょうだい）、そして後述する八景亭（はっけいてい）といった建物が巧みに配置されており、池泉回遊式の庭園として、池の周囲を巡りながら様々な角度からの景色を楽しむことができるようになっています。

「玄宮園」という名は、唐の玄宗皇帝が造営した離宮庭園を参考にしたことに由来すると伝えられています。また、玄宮園の景観は、琵琶湖周辺の風光明媚な景色を集めた「近江八景」に見立てられており、池畔に立つ中心的な亭屋（ちんおく）の一つは、その八景にちなんで「八景亭」と名付けられています。

隣接する楽々園は、四代藩主直興公によって延宝五年（1677年）に着工され、同七年（1679年）に完成したもので、造園は藩士の松本行右衛門が手掛けたと伝えられています。その後、七代藩主直惟公の時代、享保三年（1718年）には倹約のため一部が縮小されましたが、文化十年（1813年）に十一代藩主直中公が隠居するにあたり、新たな建物を増築してここへ移り住み、「槻御殿（けやきごてん）」と称しました。さらに、十二代直亮公、十三代直弼公の代にも数寄屋や二階建てが増築されるなど、時代を経て姿を変えていきました。

これらの殿舎の東側に広がる、数寄屋を取り囲む広い庭園が、かつて「槻のお庭」と呼ばれた現在の玄宮園であり、庭園内に建つ数寄屋造りの亭屋が八景亭にあたります。八景亭は、明治維新後、明治初年（1868年）に幕府から彦根の紙質商で富豪の安居喜八氏に払い下げられましたが、明治十九年（1896年）に再び井伊家が買い戻し、井伊家の所有のもとで料理旅館として使用されました。明治三十年（1897年）、当時の八景亭の営業を担っていた阿知波勘次郎氏（湖東地方の富豪）らの申し入れにより、彦根町が引き継ぐこととなり、明治三十二年（1899年）からは町が一括して管理する体制となりました。そして、昭和九年（1934年）からは、現在も営業を続けている料理旅館が運営にあたっています。

玄宮園では、歴史と自然を肌で感じられる様々な機会が提供されています。毎年九月には、虫の音色を楽しむ「玄宮園で虫の音を聞く会」が開催され、夜には庭園が優雅にライトアップされ、幻想的な雰囲気に包まれます。また、かつて旧彦根藩主が庭園内の魚躍沼に屋形船を浮かべ、招待客をもてなしていたという歴史に倣い、彦根観光協会では2024年（令和6年）11月17日より「迎賓船」を復活させ、試験運航を行っています。

玄宮園は、1951年（昭和26年）6月9日に国の名勝に指定されました。開園時間は通常午前8時30分から午後5時まで（11月には夜間ライトアップ期間あり）で、基本的に年中無休です。

電車でのアクセスは、JR琵琶湖線彦根駅から徒歩約15分。車でのアクセスは、名神高速道路彦根インターチェンジから国道306号を経由します。彦根城周辺には有料駐車スペースが利用可能です。

玄宮園の周辺には、隣接する楽々園のほか、国の特別史跡である埋木舎（うもれぎのや）、滋賀県護国神社、彦根城博物館、国の名勝である旧彦根藩松原下屋敷庭園など、彦根の歴史や文化に触れることができる施設が多数点在しており、合わせて訪れることで、より深く地域の魅力を堪能することができます。

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