ツノ銀中飛車

ツノ銀中飛車：将棋における個性的な戦法

ツノ銀中飛車は、将棋における中飛車戦法の一種です。飛車を5筋に振り、左銀を6七（後手なら4三）に配置する独特な陣形が特徴です。この配置から「ツノ銀」という名が付けられました。まるで角のように突き出た2枚の銀が、その名の由来となっています。

戦略と展開

ツノ銀中飛車は、相手の対応によって大きく戦略が変わります。

急戦の場合： 相手が積極的に攻めてきた場合は、そのままこの陣形で応戦します。この場合、特に「片ツノ銀」と呼ばれます。素早い攻防が展開されるのが特徴です。

持久戦の場合： 相手がじっくり構えてきた場合は、右銀を4七（6三）、右金を3八（7二）または4八（6二）、玉を2八（8二）または3八（7二）に配置し、堅固な「木村美濃」という囲いを築きます。左金は7八（3二）に配置されることが多いです。この囲いは、左右対称的で、飛車が5八の位置を占めるため、左金が通常の位置に配置できない点が特徴です。

大山康晴名人は、この戦法を得意としていました。特徴的なのは、戦いながら徐々に左の金銀を玉の守備に回していく指し回しです。また、3八（7二）の飛車から繰り出す袖飛車による逆襲も有効な戦術です。

対抗策

ツノ銀中飛車に対しては、居飛車側は様々な対策を講じます。

急戦: 棒銀など、積極的な攻めを仕掛ける。しかし、対四間飛車とは異なり、容易ではありません。
加藤流袖飛車: 後手中飛車に対する有効な戦法です。
金立ち戦法（4六金戦法）: 堅実な対策として知られています。
持久戦: 居飛車穴熊や玉頭位取り戦法など、堅い囲いを築いて対抗します。

5筋を突かない場合は「英ちゃん流」と呼ばれ、独特の展開を見せます。また、角を5筋に移動し、中住まいとする「風車」という戦法もあります。これはツノ銀中飛車から発展した形ですが、最初から風車を狙う指し方もあります。

歴史と変遷

ツノ銀中飛車の原型は江戸時代後期に見られるとされていますが、広く流行したのは戦後です。山田道美氏の研究によると、1846年には既にこの戦法が用いられていた記録が残っています。

大山康晴、升田幸三といった名棋士がツノ銀中飛車を愛用し、全盛期を築きました。その後も大内延介、森雞二といった一流棋士に愛用され、中飛車の代表的な戦法として長く親しまれてきました。

しかし、左右非対称な陣形と薄い玉囲いという弱点から、居飛車穴熊などに対して決定的な対策がなく、勝率が低下。中飛車自体の衰退と共に、ツノ銀中飛車も影を潜めることとなります。

近年では、伊藤果九段が風車型ツノ銀中飛車を愛用しており、現代将棋においても、その独特な戦法は息づいています。

まとめ

ツノ銀中飛車は、その独特の陣形と柔軟な対応力から、多くの棋士を魅了してきた戦法です。歴史と伝統、そして現代における活用法を知ることで、将棋の奥深さをより一層理解できるでしょう。 急戦から持久戦まで、様々な展開が可能なツノ銀中飛車は、将棋における魅力的な戦法の一つと言えるでしょう。今後も、その進化と発展が期待されます。

もう一度検索