ゴキゲン中飛車

ゴキゲン中飛車：積極性を重視した中飛車戦法

ゴキゲン中飛車とは、将棋における中飛車戦法の一種で、飛車を5筋に振ることを特徴とする、攻撃的な戦法です。従来の中飛車が受けに回る傾向が強かったのに対し、ゴキゲン中飛車は積極的に攻めを仕掛け、5筋の位を早期に確保することを目指します。略称は「ゴキ中」です。

歴史と開発

ゴキゲン中飛車のルーツは、第1期名人戦の決定局である木村義雄対花田長太郎戦に見ることができます。この対局では、後手の花田が角道をオープンにした中飛車を採用しましたが、結果は木村の勝利でした。しかし、花田の中飛車も互角以上に戦えていたことから、中飛車の可能性を示唆する一局となりました。

後手番における5筋位取り中飛車は、富沢幹雄が早くから指していました。1989年には日浦市郎との対局で、▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5二飛というゴキゲン中飛車の基本形が記録に残っています。その後、1990年代初頭には木下浩一や有森浩三もこの戦法を採用し、アマチュア棋界では70年代から柿沼昭治が指していました。

しかし、ゴキゲン中飛車を戦法として体系化し、普及させたのは近藤正和です。彼は升田式石田流と5筋位取り中飛車を融合させ、奨励会時代からこの戦法を指し続けました。プロデビュー後には10連勝という記録を達成し、これは当時のデビュー連勝記録と並び、藤井聡太が更新するまで破られませんでした。この功績により、近藤は2002年度将棋大賞の升田幸三賞を受賞しました。

ゴキゲン中飛車は近藤の二つ名「ゴキゲン流」としても知られ、その開発は将棋界に大きな影響を与えました。その後も、星野良生、佐藤康光、菅井竜也といった棋士がゴキゲン中飛車関連の研究で升田幸三賞を受賞しており、その影響力の大きさがわかります。さらに2005年には、ゴキゲン中飛車の高い勝率により、近藤は勝率第一位賞を受賞しました。

2008年度には、それまで常に先手番の勝率が高かった公式戦において、初めて後手番が勝ち越しました。その要因の一つとして、ゴキゲン中飛車のような後手有利な戦法の台頭が挙げられています。

手順と基本形

ゴキゲン中飛車は基本的に後手番の戦法です。

▲7六歩△3四歩▲2六歩と進んだ後、4手目に△4四歩ではなく△5四歩と角道を止めずに飛車を5筋に振るのが特徴です。さらに、▲2五歩と飛車先の歩を伸ばす手に対して△5二飛と飛車を回すのが基本形となります。

先手番で指す場合、端歩を突いてタイミングを遅らせるなどの工夫が必要となりますが、初手▲5六歩△3四歩から▲5八飛と飛車を回す展開も存在します。

命名秘話

「ゴキゲン中飛車」という名前は、近藤正和自身ではなく、将棋世界編集長の大崎善生によって命名されました。近藤が好成績を残し、戦法書を出すことになった際に、会議で議論が難航した末、大崎が近藤の明るい性格から「ゴキゲン中飛車」と提案し、近藤本人も承諾したという経緯があります。

対ゴキゲン中飛車対策

ゴキゲン中飛車に対しては、様々な対抗策が考案されています。

丸山ワクチン

丸山ワクチンは、2002年頃から丸山忠久が積極的に用いた対抗策です。序盤に角交換を行い、持久戦に持ち込むことを狙います。

新丸山ワクチン

丸山ワクチンの改良版で、▲7八銀と構えることで、△3三角と打たれた際の対応策を確保しています。

佐藤新手▲9六歩

佐藤康光が編み出した新手で、▲9六歩と突くことで新丸山ワクチンへの移行をスムーズに行うことができます。

▲5八金右超急戦

これは、ゴキゲン中飛車に対して積極的に攻め合う戦法です。藤井猛が考案し、短手数で終局することが多いため、研究量が勝敗を大きく左右します。

▲7八金型

飛車先交換をせずに駒組みを進める戦法で、角道を開けておくことで、相手の中飛車に圧力をかけます。

超速▲3七銀

2010年代初頭に流行した戦法で、▲3七銀と銀を繰り出し、速攻を狙います。星野良生が開発し、同年に升田幸三賞を受賞しました。

居合抜き超速

初手から角道を開けずに駒組みを進め、後に角道を開けて超速戦法に繋げる戦法です。

角道不開型

角道を最初から開けずに構えることで、相手の攻撃を抑制する戦法です。

角道不開左美濃

角道を開けずに左美濃に囲うことで、堅実な駒組みを目指します。

4七銀型

飛車先の歩を交換することを目指し、桂馬と連携して攻撃を仕掛ける戦法です。

相振り三間飛車

三間飛車に振ることで、相振り飛車に持ち込み、ゴキゲン中飛車に有利な展開に持ち込む戦法です。

居飛車穴熊

堅い穴熊囲いを構築することで、ゴキゲン中飛車の攻めを受け止めます。「一直線穴熊」と呼ばれる、右銀を動かさずに穴熊に組む戦法も存在します。

ゴキゲンはずし

初手▲7六歩に対し、▲6八玉と玉を囲うことで、ゴキゲン中飛車の展開を妨害する戦法です。

まとめ

ゴキゲン中飛車は、その攻撃性と高い勝率からプロ・アマ問わず多くの棋士に愛されている戦法です。しかし、様々な対抗策も開発されており、今後も進化を続ける戦法と言えるでしょう。

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