珪肺

珪肺：結晶シリカによる深刻な職業病

珪肺（けいはい、silicosis）は、結晶シリカ（二酸化ケイ素）を含む粉塵を吸入することで発症する、深刻な職業性肺疾患です。肺胞に炎症と瘢痕を引き起こし、呼吸困難などの症状を呈します。古くから知られており、産業革命以降、鉱業や建設業など、シリカ粉塵を発生する作業に従事する労働者において発症率が高まりました。

珪肺の種類と症状

珪肺は、発症の速さや重症度によって、大きく4種類に分類されます。

1. 慢性単純性珪肺: 低濃度のシリカ粉塵への長期曝露により、10～30年後に発症する最も一般的なタイプ。初期症状は乏しく、咳や運動時の呼吸困難などが徐々に現れます。
2. 加速性珪肺: 高濃度のシリカ粉塵への曝露後、5～10年で発症。慢性単純性珪肺と同様の症状を示しますが、進行が速く、重篤な合併症のリスクも高まります。
3. 複雑性珪肺: 慢性または加速性珪肺が進行し、重度の瘢痕化を伴う状態。呼吸障害が著しく、結核などの合併症も起こりやすくなります。
4. 急性珪肺: 高濃度のシリカ粉塵への曝露後、数週間～5年で発症する重症型。激しい呼吸困難、咳、体重減少など、深刻な症状を短期間で呈し、死亡することもあります。

慢性珪肺の症状は、初期には目立たない場合もありますが、進行すると呼吸困難、咳、疲労、食欲不振、体重減少、胸痛、発熱、爪の異常などが出現します。重症化するとチアノーゼ、肺性心、呼吸不全などを起こすこともあります。

珪肺の原因と病態生理

珪肺の原因は、結晶シリカを含む微細な粉塵の吸入です。特に、アルファ型石英、クリストバライト、鱗珪石が危険性が高いとされています。

シリカ粉塵が肺に沈着すると、マクロファージが炎症反応を引き起こし、サイトカインを放出します。これにより線維芽細胞が増殖し、コラーゲンが過剰に産生され、肺組織が線維化し、結節が形成されます。シリカ粉塵の表面からはラジカルが生成され、周辺細胞を損傷します。

珪肺の診断と予防

珪肺の診断は、シリカ粉塵への曝露歴、胸部X線検査やCTスキャンによる画像所見、他の肺疾患の除外などから総合的に判断されます。胸部X線検査では、上肺部に小さな結節陰影が見られます。

珪肺の予防には、シリカ粉塵発生源の特定と、粉塵の抑制・管理が不可欠です。作業環境の改善、粉塵マスクの着用、適切な換気設備などが重要です。

珪肺の治療

珪肺は不可逆的な疾患であり、完治はありません。治療は、症状の緩和と合併症の予防が中心となります。シリカ曝露の中止、喫煙の回避、咳止めや抗生物質の投与、必要に応じて酸素療法や呼吸リハビリなどが行われます。肺移植も選択肢としてありますが、リスクも伴います。

珪肺の疫学

珪肺は、世界中で発生する重要な職業病です。特に、鉱業、建設業、石材加工業などの労働者で発症リスクが高いです。近年では、デニムのサンドブラスト加工も新たな危険因子として注目されています。

途上国では、労働環境の悪さから発症率が高く、深刻な社会問題となっています。先進国においても、適切な予防策がなければ、依然として発症リスクは存在します。

まとめ

珪肺は、早期発見と予防が非常に重要な疾患です。シリカ粉塵への曝露を避けるための適切な対策と、定期的な健康診断が不可欠です。症状が出現した場合は、速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受けてください。

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